ホリデイ、痛恨の落球の瞬間。今季、トレード期限ギリギリでカーディナルスに移籍の外野手

ホリデイの落球とオーウェンの捕逸。
~MLB史に残るエラーの物語~

芝山幹郎 = 文 ⇒この著者の記事一覧

text by Mikio Shibayama

photograph by REUTERS/AFLO

ホリデイの落球とオーウェンの捕逸。~MLB史に残るエラーの物語~

 ナ・リーグ最強と目されていたカーディナルスが、プレーオフの舞台から早々と姿を消した。格下扱いのドジャースにまさかの3連敗を喫したからだが、勝敗の分岐点となったプレーはだれの眼にも明らかだった。

 問題のシーンは、ディヴィジョンシリーズ第2戦の9回裏に起こった。しかも2死無走者。2対1とリードしたカーディナルスは、あとアウトひとつで対戦成績を1勝1敗の五分に持ち込むところだった。打席に立っていたのは、ジェームズ・ローニー。

 ローニーの打球は、弱々しい飛球となってレフトに飛んだ。が、万事休すとだれもが思った瞬間、カーディナルスの左翼手マット・ホリデイがうろたえたような動きを見せた。

「光が眼に入った。球が見えなくなった。グラヴに入らず、胃袋に当たった」

9回裏、左翼手ホリデイの落球。プレーオフの流れは決した。

 試合終了後、ホリデイは記者団にこう述べている。テレビの画像を見ても、発言に誇張はない。ドジャースは息を吹き返した。余勢を駆って出塁を続け、マーク・ロレッタのサヨナラ安打で土壇場の逆転勝ちを手にした。

 私は反射的に思った。これは球史に残る落球ではないか。そういえば、68年前のワールドシリーズでも似たことがあった。9回表2死無走者からの失策が大逆転を呼んだのだ。

 もちろん私はその試合を見ていない。生まれる前の話だから当然のことだ。が、写真は見ている。写真には打者と捕手が映っていた。ヤンキースの打者とドジャースの捕手。

 事件は1941年10月5日に起こった。舞台はワールドシリーズ第4戦。ヤンキースの2勝1敗で迎えたこの試合、ドジャースは本拠地エベッツ・フィールドで4対3と1点をリードしたまま最後の守備についていた。

 最後の打者になるはずだったのは、ヤンキースの三番打者トミー・ヘンリックだ。マウンド上は5回から救援した右腕のヒュー・ケイシー。カウントはすでにツースリー。

 ところが運命の6球目、ヘンリックの空振りしたボールを、捕手のミッキー・オーウェンがうしろへ逸らしたのだ。球はドジャースのダグアウト前にまで転がり、ヘンリックは一塁に生きた。痛恨のパスボールだ。ヤンキースにしてみれば起死回生の振り逃げだ。

 ここから先の展開は、2009年10月8日の物語と瓜ふたつである。生き返ったヤンキースは、ディマジオとケラーが短長打を連ねて逆転に成功し、ゴードンの二塁打でドジャースにとどめを刺した。もちろん翌日も勝利。シリーズの行方は一気に決した。

パスボールをしたオーウェンは潔い態度でファンに愛された。

 ドジャースのショックは大きかった。そんななか、オーウェンはひとりで責めを負った。

「速くて小さなカーヴが来ると思っていたら、大きく割れるカーヴが来た。捕り損なった私のミスだ。マウンドに行ってケイシーにひと息つかせなかったのも私が悪い」

 潔い態度は、ファンの喝采を受けた。オーウェンのもとには4000通に及ぶ激励の手紙と電報が殺到した。なかには、彼が既婚者とは知らず、結婚を申し込む文面さえ混じっていたという。

 68年後の10月、かつての犠牲者ドジャースは、立場をそっくり逆転させた。これも運命の皮肉か。ただ、好漢ホリデイの不運は同情に値する。野球ファンの人情にいまも昔も変化がなければ、彼のもとにも激励の手紙やメールが何通か届くはずなのだが。

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筆者プロフィール

芝山幹郎

芝山幹郎

1948年金沢生まれ。東京大学仏文科卒。評論家・翻訳家。著書に『大リーグ二階席』『アメリカ野球主義』『映画は待ってくれる』『映画一日一本』『アメリカ映画風雲録』などがある。訳書はジョージ・F・ウィル『野球術』、スティーヴン・キング『ニードフル・シングス』『不眠症』など多数。「イチローとモウリーニョはいつまでも見飽きない」そうだ。新刊は、ロバート・ホワイティングとのロング対談『新・イチロー伝説』(ベースボール・マガジン新書)。
 


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