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レーブ新監督を巡る羨望と嫉妬 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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posted2006/09/26 00:00

レーブ新監督を巡る羨望と嫉妬<Number Web> photograph by AFLO

 代表チームが再び活動を開始した。スウェーデン戦を皮切りに、ユーロ08年大会予選のアイルランド戦、同サンマリノ戦と3連勝。結果だけ見たら「W杯の勢いが続いている」と言えそうなのだが、親善試合だったり相手が弱小であることから、かなり割り引いて評価しないといけない。大量得点で無失点というのは出来すぎだ。それでもファンは、「俺たちはあと数ヶ月、いやもしかしたら2年間は気分よく生活できるぜ」とトランス状態。イタリアの“優勝当日だけ絶頂、翌日から地獄”とは対照的である。

 クリンスマンの後を継いだのはヨアヒム・レーブだ。実は私、彼のイケメンぶりがすごく気に入っている。濃い眉毛、タカのように鋭く理知的な眼、真っ黒フサフサの髪、そして落ち着いた物腰。頭脳明晰はもちろん。こんな渋い中年男だったら新宿や原宿で大モテだろう。自称“チョイ不良”の私もこうなりたい……、あっ、いかん。『LEON』の読みすぎだ。

 冗談はともかく、先のW杯において、戦術の専門家であるレーブは、戦略を策定し、作戦を練り、メンバーを決める事実上の指揮官だった。彼の攻撃的でハイリスクなスタイルは、サッカーの醍醐味を十分に味わわせてくれる。これほどワクワクするドイツ代表を、我々はいったい何年間待ち続けていたことか。

 代表チームに選手を送るのは国内リーグのチームだが、レーブはブンデスリーガを「欧州で通用しなくなったのは、リーガの戦術の古さとテンポの遅さにある」と糾弾、何度も「時代錯誤だ」と批判してきた。

 しかし現役時代の履歴書を重視する守旧派は「アイツはたった52試合しかプロ選手の経験がなかったじゃないか」とレーブを見下した。とはいえ、彼らがレーブと戦術論を交えることはない。レーブの戦術、技術、トレーニング法の博識が尋常なレベルでないことを彼らはよく知っている。論争しても勝てないので最初から“不戦敗”を決めこんでいるのだ。

 そんなレーブ信奉が強まる中、王者バイエルンのマガート監督が「これまでどこでも監督として成功してきたというのに、オレは過小評価されている」「60歳になったら代表監督になるつもりだ」と吼えた。かつてチャンピオンズカップで優勝したこともある53歳のマガートにとり、自分より7つ年下でしかも無冠のレーブが国家の英雄扱いされるのは愉快なことではない。こうして羨望と嫉妬が早くも渦巻いている。

 サンマリノ戦でドイツは13点を取り、なにやら花火大会みたいになってしまったが、それでもレーブは浮つかなかった。次の試合は10月11日のスロバキア戦。果たしてレーブはアイルランド戦で見せたような堅実なチーム作りを進めていくのか、それとも「いてまえ」路線を継続するのか。

 レーブ本人は、酒もタバコもやらない、いたって地味な人間である。そういうこともあって「攻撃的なのは前任者の影響。本当は守備的な戦術をとる」との予測も消えない。少なくとも、100%出場確実といえるユーロまでの2年間でレーブに明確な評価は下すことはできないだろう。そうなれば羨望と嫉妬が、寄せては引いての繰り返しということか。艶男(アデオス)も辛いものである。

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