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ヴァンダレイ・シウバ&マウリシオ・ショーグン「殴り合うたび、絆は深まる」 

text by

近藤隆夫

近藤隆夫Takao Kondo

PROFILE

posted2006/01/26 00:00

 「UFCが始まった頃には、現在のような状況は想像すらしていませんでした。私たちは、ずっとムエタイのジムとしてやっていたんです。ただ、UFCの開催は総合格闘技を闘うためのトレーニングを本格的に始める切っ掛けにはなりました。自分たちがやってきた打撃は、バーリトゥードでも必ず通用すると信じていましたから。打撃全盛の時代、それは我らがアイドル、ヴァンダレイ・シウバが切り拓いたのだと私は思っています。彼は『PRIDE』のリングでムエタイの強さを証明し、また、その攻撃的なスタイルは多くのファンの心を惹きつけました。他の選手たちも、その姿に影響されたことで打撃全盛の時代は築かれたんじゃないでしょうか」

 シュートボクセアカデミーの会長、フジマール・フェデリコは、そう話す。

 いまや総合格闘技において世界でもトップクラス「打撃アカデミー」に成長したシュートボクセは、フジマールが17歳の時に開いたもので28年の歴史を持つ。人口約150万人、コーヒーの産地として知られ、計画的な街づくりが進められたことで「南米一、美しい街」とも言われるパラナ州の州都クリチーバ。実は、この地はブラジルで初めてムエタイが伝えられた場所でもある。その継承者ネリオ・ボルゲスからムエタイを学んだというフジマールのアカデミー……打撃へのこだわりの起源は、そこにある。

 現在、アカデミーには、ホイラー・グレイシーのかつての弟子クリスチャーノ・マルセイロ、またニーノ・シェンブリといった柔術の指導者もいるが、ここでの主流は、やはりムエタイ。ほとんどのファイターにとって柔術を学ぶことは対戦相手の動きを知るためであり、打撃を活かすための手段の一つに過ぎない。シウバ、そして左足の脛に「MUAY THAI」のタトゥーを彫り込んでいるマウリシオ・ショーグンは口を揃えて言う。

 「打撃で、KOで勝つことには、こだわりを持っている。それが俺たちのやり方だ」と。

 シュートボクセの変わらぬ姿勢。

 アカデミーでは昼前から夜まで一日3クラス制でトレーニングが行われている。プロのファイター、一般ジム生の区分けはない。皆、一緒に練習をする。学校には通っていないのだろうか、小学生くらいのムエタイパンツを穿いた男の子が一日中、マットの上で動いていたり、おそらくはダイエットのために通い始めたのであろう腹部を膨らませた中年男性が、シウバの横でサンドバッグを蹴っていたりする。その光景は、少しばかりコミカルだ。それでも、空気が緩んでいるわけではない。シウバやショーグンが、サンドバッグを撓らせ鋭い蹴撃音を響かせるとアカデミー内には瞬時に緊張感が漲る。

 練習を仕切るのは、このアカデミーの総合コーチである32歳のハファエル・コルデイロ。既に18年間、アカデミーに所属している古株で、選手たちからの信頼も厚い彼も元ムエタイ選手。― '99年には、『バーリ・トゥード・ジャパン』で佐藤ルミナと闘ったこともある。ハファエルもまた、打撃に強いこだわりを持つ一人だ。彼は言う。

 「打撃を学ぶことは、寝技を覚えるよりも難しいんだ」と。

 「これは技術面の問題ではない。メンタル的に難しいんだ。パンチは怖いし、当たれば痛い。それに耐えうるメンタリティを最初に身につけておく必要がある。打撃の選手は、やる気にさえなれば、寝技の防御技術はスムーズに覚えられる。しかし、寝技の選手は、打撃の恐怖心になかなか対応できない。総合格闘技では、打撃から学ぶことが有効なのさ」

 シュートボクセ生え抜きのプロファイターたちは誰もが、最初にムエタイの試合を経験している。シウバも、ショーグンも、ムリーロ・ニンジャもサイボーグもそうだ。まずは打撃での攻防を体感して肝を練る。この過程を経てから、アカデミーを代表して総合格闘技に挑むのだ。打撃至上主義は貫かれている。

シュートボクセの強さ、その深層にあるものは?

 アカデミーを訪れた大晦日直前の或る日、興味深いシーンに出会うことができた。試合に向けての最終調整に入っていたシウバがショーグンとスパーリングを繰り広げていたのである。「PRIDEミドル級王者」と「同GP優勝者」の豪華な顔合わせ。その激しさは言うまでもないが、面白かったのは二人がともに後退を頑なに拒否すること。互いが、「前へ!― 前へ!」と出る。それはシュートボクセが育んだチャンピオン同士ならではの格闘シーンだった。技術の競い合いと言うよりは、互いに心の強さを試し合っているようにも見える。ハファエルは言った。

 「ショーグンとスパーリングをやるとヴァンダレイの積極性が蘇る。最近のヴァンダレイは、立場もあって闘いが慎重になり過ぎていた。それでは駄目なんだ。以前のように積極的に前へ前へと出る必要がある」

 打撃へのこだわり、そしてアグレッシブなスタイル……この2つはシュートボクセの持ち味だ。そのことは再認識できた。しかし、数日間、練習を見た限り、シュートボクセならではのスペシャルな打撃技術を目にすることはできなかった。再びハファエルの言葉。

 「私が教えているのはムエタイのオーソドックスな技術さ。闘いには勿論、テクニックも必要だが、もっと大切なのは、ハードに練習をして前へ出る強い気持ちをつくることだ」

 だが、シュートボクセの強さの秘密は、果たして本当にそれだけなのか?

(以下、Number645号へ)

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