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ポルトガル 「黄金世代を超えて」 

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竹澤哲

竹澤哲Satoshi Takezawa

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posted2007/07/26 23:57

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[ユーロ2008優勝候補]ポルトガル 「黄金世代を超えて」

竹澤哲=文

text by Satoshi Takezawa

 ポルトガル代表が6月にクウェートに遠征したとき、ルイス・フェリペ・スコラーリ監督は自信満々にこう語っている。

 「現在、ポルトガル代表は世界中を魅惑するチームだ。世界から招かれるのも、偉大な結果を我々が出してきているからだ」

 今年2月に親善試合でブラジル代表を2― 0で破った際、デコはこうコメントした。

 「ポルトガルはもはや、ブラジルのレベルにほとんど達していると思う」

 ポルトガルは、2003年1月にスコラーリが監督に就任するまでは、ヨーロッパの中堅レベルにしかすぎなかった。しかしスコラーリの卓越した手腕のもと、前回のユーロでは準優勝、'06年W杯では4位と結果を残し、いまや来年開催のユーロの優勝候補に挙げられる存在にまで成長した。

 順風満帆に見えるポルトガル。しかし現在の姿は、ある事件を乗り越えてのものだった。

 スペインのスポーツ紙『マルカ』に掲載された記事をたまたま見つけたのは、昨年11月10日のことだった。

 「来週水曜日行われるユーロ予選、ポルトガルはカザフスタンと戦うが、その招集メンバーにコスティーニャは含まれなかった。スコラーリ監督はキャプテンに対して罰を与えたのである。

 アトレティコ・マドリーでプレーするコスティーニャはポーランド戦(10月11日)直前に与えられた自由時間に、デコ、ペティト、ヌノ・ヴァレンテと共に夜間外出をしてホテルに朝8時に戻ってきた。ポーランド戦をポルトガルは落としているが、スコラーリ監督はコスティーニャを見せしめとして今回招集しなかったようだ。だがデコは招集されている。

 監督はこのことについて一切コメントしていない」

 その時はたいして気にもとめなかった。しかし、今年2月のブラジル戦の記者会見で、スコラーリは、毅然とした態度で、あえてこの件に触れたのだ。

 「私は監督として、選手たちの行動には気をつけている。それは練習においてだけではなく、グラウンド外での行動に対してもだ」

 この事件は、ポルトガル代表に少なからぬ影響を与えたのだろうと感じさせた。改めて詳しいことを知りたいと思い、ポルトガル最大のスポーツ紙『ア・ボーラ』のジョゼ・カエターノ記者に聞くと、こんな返事が返ってきた。

 「代表の番記者ならだいたい何が起こったかは知っているはずだ。でもポルトガルにはタブロイド紙が一つあるだけで、それ以外のスポーツ紙は一切そのようなことは書かない」

 どうやらポルトガルではこうしたスキャンダラスなことは記者たちも触れたがらないようなのだ。カエターノはこう続けた。

 「コスティーニャが招集されないのは、アトレティコでも試合にでていないし、コンディションがよくないせいでもあるのだろう」

 しかしスコラーリは、これまでクラブで試合に出ていない選手でも関係なく招集してきている。さらにW杯直前にフィーゴを代表に呼び戻したことからも分かるように、キャプテンという存在をとても重要に考えている。フィーゴが抜けた後だけにコスティーニャを切り捨てるのは、苦渋の選択だったはずだ。

 真相について、手当たりしだい知り合いのポルトガル人の記者たちに尋ねてみると、ようやく、ある記者が匿名を条件に重い口を開いてくれた。

 「ある代表の選手から聞いたのだが、コスティーニャたちはポーランドのホジュフにあるディスコに行き、シャンパンを数本空けた。それだけでなく、コスティーニャとマニシェは女性を連れてホテルに戻ってきた」

 しかも、その事件が起きたのは、ポーランド戦前夜だったというのだ。記者が続ける。

 「スコラーリのように規律を重んじる監督にとってこの一件は許し難いことだった。ましてやキャプテンとして、コスティーニャに対しては大きな信頼を寄せていただけにショックだったにちがいない。『コスティーニャはピッチ上の私自身の声である』とまで言っていたのだからね。おそらくコスティーニャが代表に呼ばれることは二度とないだろう」

 振り返れば、ポルトガルはユーロ予選のスタートから躓いていた。アウェーとはいえ初戦は格下・フィンランドにまさかの引き分け。2戦目のアゼルバイジャン戦こそ勝ったものの、事件があった、問題のポーランド戦で敗れている。輝かしい成績を続けてきたスコラーリに、初めて黄信号が灯った瞬間だった。単なる敗戦というだけでなく、背景にそうした事件があっただけに、下手をすればチームが崩壊してもおかしくないような状況だったはずだ。しかし、ここでスコラーリが打った手は極めて大胆なものだった。

 およそ1カ月後に行われたカザフスタン戦は、ホームということもあり、絶対に落とせない一戦である。スコラーリはこの試合で大幅にメンバーを入れ替えたのだ。しかも招集した20人のうち、初招集の選手が4人、そのうえ25歳以下の選手を10人も入れたのだ。この理由をスコラーリは、「すでにアンダー21 代表がヨーロッパ選手権への出場を決めたからだ」と説明した。気が緩んでいるベテランに刺激を与えることができるにしても、あまりにもリスクの高いやり方に思えた。

 さらに問題もあった。試合はもともと圧倒的な実力差があることもあり、3― 0で勝ったが、コスティーニャを外したことによりリーダーが不在になったのだ。デコなどは、「資質の高い選手が揃っているし、僕らにはいくつものオプションがある。ルイス(フィーゴ)なしでも僕らはW杯に出場を決めたのだから、リーダー不在など関係ない」と軽く受け止めていた。だが、スコラーリは、ケガで8カ月間戦線を離れ、まだ100%の状態ではないアンドラーデを「生粋のリーダーである。完全な状態ではないが、彼がチームにいることが重要なのだ」と言って招集している。この時点ではスコラーリがリーダー不在を不安に感じているように思えた。

(以下、Number683号へ)

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