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川淵三郎 「いつも強行突破。だから変えられた」 

text by

武智幸徳

武智幸徳Yukinori Takechi

PROFILE

photograph byTabashi Shirasawa

posted2008/05/29 17:57

川淵三郎 「いつも強行突破。だから変えられた」<Number Web> photograph by Tabashi Shirasawa

日本人で将来楽しみな監督が育ちつつある。

──オフトの後、外国人監督のファルカンが続きますが、もし加茂周さんが空いていたら、加茂さんになっていたんですか。

 「いや、それはないね。僕はオフトを辞めさすつもりは毛頭なかったんだよね。ドーハの悲劇はあったけど、日本代表をきちっと育ててくれているし、コストパフォーマンスから言ったって代わりに呼べる監督なんて頭にないしね。でも、強化委員会で委員のセルジオ越後が、ワールドカップでの実績がないからああいう負け方をするんで、実績のある監督を呼ぶべきだと言ったんだよ。セルジオについては理事会でも、『なんで技術委員なのに日本のサッカーをあんなに批判するんだ』という声は上がっていたけど、日本のサッカーの発展につながるならいいと思ってた。だから、あ、そういうものかと考えて、検討させたら出てきたのが、元フランス代表監督のイダルゴ。それから元ブラジル代表監督のテレ・サンターナ。ヨーロッパのオフトの後だから、イダルゴに行こう、となった」

──しかし、交渉のルートはあったのですか。

 「何にもない。当時の日本サッカー協会の実力なんて、何にもないようなものだった。つてをたどってイダルゴに会ったけど、『え、日本にサッカーなんかあったの?』てな感じで断られたんだよね」

──けんもほろろという感じですか。

 「けんもほろろ。ほんとはクラマーとの関係からドイツ協会と仲良くしていればよかったんだけど、協会同士のつきあいは、ほとんどなかった。監督の人選についてクラマーとかに相談するという考えは全然頭に浮かばなかった。外国の協会とのいい関係なんて、ほとんど記憶にない。国際交流では、相当に遅れていたんだね。

 それじゃ、テレ・サンターナだと行ってみたら、総額10億円と言われたんだよね。そのときオフトが2千数百万でしょ。今なら日本サッカー協会はお金持ちだから、そんなにびっくりしないかもしれないけど、当時は話にならない。GKコーチとかフィジカルコーチだとか4人まとめて10億円て言うんだけど、全然論外。そしたら、ファルカンがいる、という話になった。元ブラジル代表監督だけど、1億円足らずでやれそうだって。10億円という話を先にしているからね、まあいいかって」

──そんなふうに決めたのですか。

 「日本のサッカーに合っているのはどれかという話じゃないんだよ。今だってそんなに選択肢が多いわけじゃないけど、当時は行き当たりばったりだったな。

 ただ、どういう人間か分からないし、実力も分からないから、1年契約にしてアジア大会で4位以内をノルマにした。結局ベスト8どまりで辞めてもらったけど。

 加茂については、フリューゲルスで天皇杯を優勝したから、次は、と僕自身は考えていたんだ。すぐにまた外国人監督を探すのも難しくて、それならばカリスマ性のある、日本でのプロの第一人者、加茂に任せたほうがよっぽどいいと考えたんです」

──優秀な外国人監督の情報は、弱い国、リッチでない国には届かないものです。

 「あの時たとえば、ベンゲルと交渉するとなっても、支払いができたかというと、当時の協会にはほとんどなかったんだよ。Jリーグができたことで、入場料収入の5パーセントが協会に入るような仕組みをつくった。ファルカンへの1億円も、財政的な余裕ができて、ようやく払えるようになったんでね」

(続きは Number704号 で)

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