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ママでも金、負けても金?主観重視の代表選考。  

text by

折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2008/05/01 00:00

 北京五輪最終選考会だった全日本選抜柔道体重別選手権。最終日の4月6日夜、特設された記者発表の雛壇に代表選手が並んでも、会場には本番へ向けての高揚感らしきものが漂うことはなかった。「やっぱり」とでも言いたいような雰囲気。

 選手たちにも、代表に選ばれたという喜びはあまり見えない。

 予想していたとはいえ女子7階級中、この大会の優勝者は52kg級の中村美里だけという状態は寂しかった。

 強化スタッフが口にする選考理由は常に「対外国人の実績」だ。それは2、3月のヨーロッパ遠征や前年の世界選手権などだが、国際試合を経験させて貰える選手自体が限られている。なかには、最初から代表候補と目する選手ひとりだけしか眼中にないような階級もある。

 それは、決勝で21歳の山岸絵美に敗れた女子48kg級の谷亮子も同じだ。ケガで今年のヨーロッパ遠征を回避したが、彼女の代表は昨年の世界選手権で優勝した時点で決まっていたといっていい。しかも、その世界選手権の代表も、昨年の体重別で福見友子に敗れながらなったもの。その時に評価された彼女の実績は、2年前の体重別優勝と2年半前のアテネ五輪優勝だった。本来なら優勝した福見を選ぶべきでも、吉村和郎強化委員長が口にしたのは「世界選手権のプレッシャーは、普通の国際大会とは違う」という理由。'91年世界選手権から彼女が代表を独占している48kg級では、他の選手には代表の目がないのが現実なのだ。

 そんななかでも今回、ひときわ首を捻る結果だったのは女子63kg級の選考だった。代表になったのはアテネ五輪金メダリストの谷本歩実。彼女は昨年の世界選手権3位の実績はあるが、今回は腰を痛めていたこともあり、決勝で上野順恵に敗れた。

 一方、上野は昨年12月の嘉納杯で優勝し、今年はフランス国際2位、ドイツ国際優勝という実績を残している。さらに決勝も、記録上は“指導”ひとつの差だったが、終了間際の“効果”と判定されていいポイントを見逃されての勝利だった。だがそこで持ち出された選考理由は「谷本は一本を取れる技を持っていて攻撃力もある」というものだった。

 国際大会でも結果を出して頑張っている選手が、最も照準を合わせるべきこの大会で優勝しても代表には選ばれない現実。山口香強化委員の「勝っても選ばれなかった選手への説明責任として、ポイント制の導入もいいのではないか」という提案も、選考する側としてだけでなく、選手を指導する立場としても切実な感情だろう。いくら頑張っても代表になれないという現実を前にして、選手をどう励ませばいいのかと。

 日本柔道独特の主観を優先した代表選考は、'04年アテネ五輪では男子3、女子5という金メダルをもたらした。だが昨年の世界選手権では、五輪で実施されない無差別級を除けば、金は谷の1個だけに終わっている。その現実を強化スタッフはどう評価しているのか。

 男女の超級以外の選手選考が終わり、誰の目も北京へ向いている。だが日本はまだ、男子は73kg級と100kg超級以外の5階級で、女子は70kg級で五輪出場枠を獲得できていない。昨年の世界選手権で5位以内に入れなかった階級には、その権利が与えられなかったからだ。その出場枠は、4月末のアジア選手権で獲得しなければならない。そこで出場枠を逃す確率は少ないとはいえ、それこそが今の、日本柔道の現実なのだ。

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