バスケットボールPRESSBACK NUMBER
栃木ブレックス、決勝進出の陰に。
選手の強気、コーチの献身、そして。
posted2017/05/26 11:30
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
Kyodo News
「オレは来週の火曜日からも、また、このメンバーで練習がしたい。今日で終わりたくないんだ!」
舞台は5月21日の宇都宮のブレックスアリーナ。準決勝のGAME3が始まる前のこと。声の主は、ブレックスのチーム得点王にして、大黒柱のライアン・ロシターだった。
シーズンが終われば、少なからずメンバーは入れ替わる。それがプロチームの宿命だ。ならば準決勝を勝ち抜けて、決勝にむけた日々を仲間たちとまだ戦いたいと思った。
先に2勝したチームが勝ち抜けるBリーグのチャンピオンシップ(CS)。5月20日のGAME1は栃木が勝ち、翌日のGAME2はシーホース三河がとった。そして、続く10分間のGAME3でも、三河が終始リードする展開だった。
それでも、残り20秒で遠藤祐亮のゴールで栃木が追いつき、残り5.9秒で田臥勇太がファールを受けたところでタイムアウトをとる。ロシターがヘッドコーチ(HC)のトーマス・ウィスマンに歩み寄る。
ウィスマンは、安齋竜三とショーン・デニスという2人のアシスタントコーチと短く話すと、安齋コーチが戦術ボードを見せて、選手に指示を出した。
「さぁ、みなさん、信じましょう! 我らがブレックスを信じましょう!」
アリーナを盛り上げるMC SEKIの声が響き、栃木のスローインから試合は再開。古川孝敏のスクリーンでフリーになったロシターが、ジェフ・ギブスからのパスを受ける。三河の選手たちがブロックするために一斉に手を上げるが、勢いよくレイアップへ。
ボールがネットを揺らした。残りは2秒。ファンはもう泣いている。
三河の金丸晃輔が自陣から2人に囲まれながら投げたシュートは、リングに届かない。こうしてブレックスの決勝進出が決まった。
「最後のシュートをまかせて欲しいと言ってきたら」
指揮官のウィスマンはこう話す。
「自分の経験からも、ああいうシチュエーションで選手が最後のシュートをまかせて欲しいと言ってきたら、その選手に任せるべきだと思っています。そこから、いかにロシターにボールをもたせるかをコーチ陣で話しあって、安齋コーチの考えるプレーでいこうという判断になりました。
そして安齋コーチが指示を出して、そのプレーが最後のゴールにつながった。それぞれの選手、スタッフに判断できる権限を与えるというのが、このチームの良いところだと思いますし、このチームの強さと思います」
そして、こう続けた。
「最後のプレーは、このチームを象徴したプレーだったと思います」
付け加えるなら、安齋は栃木ブレックスのOBであり、チーム創設時のメンバーでもある。つまり、Bリーグ初代の王者を目指す栃木というチームの歴史を反映したプレーでもあった。