野球のぼせもんBACK NUMBER
右手で触れるのはWBC球だけ――。
千賀滉大の執念は、決戦で生きる。
posted2017/03/21 21:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Nanae Suzuki
WBC準決勝進出の米国行きを懸けたイスラエル戦に先発した千賀滉大は、5回1安打無失点という快投で「日本のエース」と称されるまでになった。
筆者は育成時代の背番号128の頃からよく知るだけに、じつに感慨深い。
「お化けフォーク」に世界中が驚き、150キロ台中盤のストレートにも各国代表の大リーガーのバットが空を切った。
しかし、思えばWBC開幕前までは不安視された侍ジャパン投手陣の中でも、真っ先に不安の声が挙がっていたのが千賀だった。
昨年はホークスで先発ローテを務め上げ、12勝3敗、防御率2.61、奪三振181の好成績を残して、秋の侍ジャパン強化試合で自身初めて日本代表入りを果たした。小久保裕紀監督からは「中継ぎの経験もある('13年に51試合登板、オールスターにも出場)」とジョーカー的役割として大きな期待を寄せられた。
強化試合から、お化けフォークがすっぽ抜け続けた。
しかし、強化試合からずっと精彩を欠いていた。
とにかくボールが操れなかった。自慢のフォークがすっぽ抜けた。千賀の良さがまるで発揮されなかった。
本大会直前も状況は変わらなかった。侍ジャパンが宮崎で合宿を開始して、最初の対外試合だった2月25日のソフトバンク戦。先発の武田翔太が3回無安打無失点と好投し2番手でバトンを受けるも、2回2安打1四球1失点と不安を残した。
失点した場面は、抜けたフォークボールをセンター前に運ばれたタイムリーヒットだった。
だが、その次の登板から、千賀は別人のような快投を続けている。
3月1日、ヤフオクドームでの台湾プロ選抜戦では1回打者3人をわずか13球でぴしゃり。
その後に京セラドームでオリックスと行った強化試合は1回3分の2を無失点。1安打を許したが、3三振を奪いつつ22球で収めたのはボールを操れていた証だった。