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神主にならなかったDeNA新人投手。
熊原健人のアンバランスな魅力。
posted2016/06/13 17:00
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph by
NIKKAN SPORTS
今、この男のマウンドを見るのが楽しみだ。
横浜DeNAベイスターズの背番号1、熊原健人。ドラフト2位で入団した新人右腕は、すでに13試合、一軍で登板経験を積んでいる(6月13日現在)。
その投球に思わず視線が引き寄せられるのは、どこかアンバランスな空気を感じてしまうからなのかもしれない。安定感のあるピッチングを披露するドラフト1位の今永昇太がテーブルの中央に置かれたグラスならば、熊原は存在自体がテーブルの端に危なっかしく置かれたグラスのように、無意識のうちに目が向いてしまう。
決して内容が危なっかしいのではない。12回と3分の2イニングを投げて、自責点1の防御率0.71。安定した、と評して間違いではない成績を残している。
外見と投球のギャップ、そして危険な香り漂う取材対応。
アンバランスの理由はまず、外見的なもの。顔立ちはイケメンなのに、フォームはやたらとダイナミックだ。実家が神社で、一時は神主を継ぐ可能性もあったことから、スポーツ新聞からは“神主投法”と面白がられた。
帽子はいつもやや斜めになっていて、やんちゃな少年のようにも見える。なのに、投げるボールは150km超のいかつい真っ直ぐ。これもまた、印象のギャップにつながる。
だがいちばん危険な香りが漂うのは、彼が取材に応じている時だ。
5月3日のヤクルト戦で一軍初登板を果たした熊原は試合後、少したどたどしい口調でマウンドを振り返った。
「自分の予想以上に、リリーフカーでマウンドに向かう時ですね、こんなに人が多いのかと。山田(哲人)さんの時はほんとに、投げてて、勝負を楽しんでました。今までテレビで見ていた人が目の前で、同じバッティングフォームで、同じユニフォームを着て」
そこまで言ったところで、記者の一人が「そらそうだろ」と笑ってツッコミを入れるのも無理はなかった。