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岩隈久志がスライダーに原点回帰。
諸刃の剣だった「初球にカーブ」。
posted2016/05/11 10:30
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
AFLO
シアトル・マリナーズの岩隈久志が“勝ちに行った”のは5月3日、敵地オークランドでのアスレチックス戦の6回裏のことだった。
3点の援護をもらっていた岩隈はこの回、先頭の1番バーンズにレフト前ヒットを打たれた後に二盗を許し、2番ロウリーの中前適時打であっさりと1点を返された。これでスコアは1-3。打席には過去の対戦で3割以上打たれている3番ジョッシュ・レディックが入った。
得点圏に走者を背負っているわけではないし、まだ2点リードしている。だが、アスレチックスはここぞという時に一気呵成に攻めてくる若いチームだ。勢いが出た場面で打順が上位に回ったというだけで、十分にピンチである。
岩隈はここで、「原点回帰」した。
左の強打者レディックに対し、初球からスライダーを連投して一ゴロに打ち取り、一塁走者を二塁で封殺したのである。
初球にカーブを投げる、という今季のスタイル。
初球のスライダー。それは岩隈が久しく投げていなかった“ストライクを取る球”のひとつだった。
岩隈は今季のオープン戦から、よく初球に緩いカーブを投げてストライクを取るようになった。実際、「スライダーよりカーブ」という選択は、岩隈に幾らかのアドバンテージを与えていた。
まず、初球に緩いカーブを投げると、ほとんどすべての打者がそれを見送った。それがストライクなら、すでにカウントは有利になる。メジャーリーグの打者が“初球カーブ”を見送る理由は、非常にわかりやすい。力と力が真っ向からぶつかるのを良しとするメジャーリーグだ。最初から緩いカーブにタイミングを合わせている打者などいないし、緩いカーブに合わせてバットを振って、打ち損じでもしたら嫌な感じが残る。
実際、日本のメディアの質問に対して「あなたは初球の緩いカーブに手を出すのか?」と聞き返した打者もいたほどで、“初球カーブ”は思いのほか功を奏しているように見えた。
それにカーブを投げ始めると、岩隈の速球に切れや伸びが出るようになった。当時、自ら「少し体が前に突っ込んでいる」と語っていた投球フォームに、カーブを投げることで“溜め”が生まれ、軽く投げているように見えたオープン戦でも、ドンピシャのタイミングでバットを振った打者が差し込まれてファウルを打つようになった。