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サッカー、いや教育関係者必読の書。
早熟な才能と「根性」の不都合な関係。 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2016/04/25 10:30

サッカー、いや教育関係者必読の書。早熟な才能と「根性」の不都合な関係。<Number Web> photograph by Getty Images

アンカーセンは『The DNA of a Winner』、『Leader DNA』などの著作があり、講演活動も行なっている。

ELでマンU相手に見せた健闘で、再び脚光が。

 2人は意気投合し、次なる投資先として、財政難に陥っていたミッティランに目をつける。ベナムが800万ユーロ(約10億4千万円)を出資して破産から救い、アンカーセンがチェアマンに就任。前者のデータ分析と後者の育成理論が融合し、昨季ミッティランはデンマーク1部で初優勝を達成して、今季はELに出場してグループステージを突破した。

 決勝トーナメント1回戦ではマンチェスター・ユナイテッドに敗れたものの、ホームで迎えた第1レグでは逆転勝利を収め、約1万人の観客を熱狂させた。このミッティランの躍進によって再びアンカーセンの本が脚光を浴び、筆者もそれによって手に取ったひとりである。

 では、日本サッカー界は同書から何を学べるのか。ここでは3つのポイントに注目したい。

 まず日本サッカーとして他人事ではないのは、アメリカで神童ともてはやされたフレディ・アドゥーの失敗例だ。14歳でMLSにデビューして「アメリカのペレ」と呼ばれたが、結局、ベンフィカやモナコを放浪してヨーロッパの舞台で成功を収めることはできなかった。

早熟な神童は、成長の原動力を失う?

 なぜ神童はめったに成功しないのか。アンカーセンはジャマイカ陸上界の名伯楽、スティーブン・フランシス(元統計学者で陸上選手経験はないが、独学で練習法を考え、次々とメダリストを生み出している)を取材し、こう教えられた。

「あまりにも早い時期に競技に熟達した人間を相手にするのは非常に難しい。そうした人は新たなことに挑戦しないし、モチベーションを維持するのが困難だ。彼らは勝つのが当然だと思っている」

 才能はモチベーションを鈍らせ、足かせにもなるということだ。

 裏付けとして、アンカーセンはスタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックの実験を紹介している。香港大学の学生に対して、難解な課題を与え、終了後にグループAには「努力」を褒め、グループBには「能力」を褒めた。それを繰り返すうちに、グループAは成績が向上したのに対し、グループBは難しい問題に挑戦するのを敬遠し始めたという。自分の才能が傷つくのを恐れたからと解釈できる。

【次ページ】 すぐに実践できるイメージトレーニング。

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ラスムス・アンカーセン

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