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常勝ホークスの柱となる正捕手を!
工藤公康は第二の城島を育成できるか。
posted2016/04/13 11:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
NIKKAN SPORTS
時計の針は、またテッペンを越えていた。
「勘弁してくれよ」「締切に間に合わないよ」とスポーツ紙の番記者たちが溜息をつく。お目当ての選手がようやく帰路につくのが日付が変わった午前0時半。記者が群がる。そして工藤公康監督が姿を現すのは午前1時を過ぎていたというのが、まだ4月上旬にして複数回あった。
試合が終わるとすぐにヤフオクドームのダグアウト裏通路にある資料室へと向かう。そこで行われるバッテリーミーティング。捕手とバッテリーコーチだけでなく、監督も参加してその試合の守りの全球をVTRで見返して、良かった点と悪かった点を洗い直す。ある程度のミーティングは毎年行われているが、今年のホークスは特に力が入っているように感じる。
特に斐紹(あやつぐ)がマスクを被った日は、尚更待ち時間が長い。
就任2年目を迎えた今年の工藤采配が一段と興味深い。
今シーズンは決意と覚悟を固め、そして期待を込めて、この若手捕手を一人前に育て上げようとしている。
30歳前後の捕手がいない、歪なチーム編成。
斐紹は'10年ドラフト1位で入団し「将来の正捕手候補」と言われながら、昨年まで一軍通算出場は23試合しかない。だが、今年の開幕スタメンに大抜擢。さらに3月29日の本拠地開幕戦、和田毅がチーム復帰後初登板を果たした大事な試合でも、バッテリーを組んだのは斐紹だった。
ホークスにはベストナインやゴールデングラブ賞経験者の細川亨(各2回)や鶴岡慎也(各1回)、昨季チーム捕手最多出場の高谷裕亮がいる。だが、細川は来年1月で37歳、鶴岡と高谷は今年35歳になる。その一方でチームには最も脂が乗るとされる30歳前後の捕手はおらず、次世代が今年24歳の斐紹や同級生の拓也まで年齢が開くという歪なチーム編成となっているのだ。
捕手の育成には時間がかかる。しかし、1人を育て上げれば10年間チームは安泰だと言われる。
今年V3を目指すホークスだが、もう一つ壮大な夢を掲げてチーム作りが進んでいる。孫正義オーナーは巨人超えの「V10構想」を高らかに宣言。今年3月に、福岡県筑後市に総工費約60億円をかけてファームの新施設を誕生させたのも無関係ではない。