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五輪代表選考のゴタゴタを忘れるな!
田中智美、リオまでの「地獄の道程」。
posted2016/03/14 11:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Yohei Osada/AFLO SPORT
変わらぬ強みと、執念がもたらした切符だった。
3月13日、名古屋ウィメンズマラソンが行なわれた。リオデジャネイロ五輪代表の、最後の選考レースとなった今大会には、ロンドン五輪代表の木崎良子(30歳)、野口みずき(37歳)といった実績のある選手に加え、高校時代から世界ユース、世界ジュニア選手権に出場するなど活躍し昨年の世界選手権には10000mで出場した小原怜(25歳)、一昨年の横浜国際女子マラソンで10代最高記録で3位となった岩出玲亜(21歳)ら注目選手もそろった。
午前9時10分、スタート。
十数名の集団が形成されて進んだレースは、ペースメーカーが外れた30kmから大きく動く。昨年の世界選手権で銅メダルを獲得しているユニスジェプキルイ・キルワ(バーレーン/31歳)がペースを上げて集団から抜け出す。キルワを追ったのは、田中智美(28歳)だった。離れて小原が3位につける。
その後、キルワと田中は離れ、37km手前で、小原が田中に追いつく。
並走が続く。残り1kmとなっても両者は譲らない。
ナゴヤドームに入る前、田中がついにスパート。小原が食い下がる。その差は1mあったかどうか、しかし縮まらない。ドームに入り表情がゆがむ。ゴールとともに田中は両手を広げ、サングラスを取った。
その目から涙があふれた。
小原はゴールするや否や、しゃがみこみ、そのまま倒れて仰向けになった。立ち上がり、しばらくするとサングラスを取る。
その目からも涙が流れた。
世界選手権代表落選が、田中を強くした。
記録は、田中が2時間23分19秒、小原は2時間23分20秒。
小原の健闘も光ったが、キルワを追った積極性、小原に追いつかれても抜かさず最後に突き放した田中の強さが際立つレースだった。
「絶対にリオに行くという気持ちは誰にも負けていないと思っていました」
ゴール後、笑顔を見せた田中の次の言葉が印象的だった。
「行けないときはショックだったんですけど、たくさんの方が次は頑張ってと言って応援してくださったので、絶対に元気に走る姿を見せるんだという思いで走りました」
「行けなかった」のは、昨夏の世界選手権だ。代表に選ばれなかった衝撃の大きさと、積み重ねてきた時間が、そこにあった。