ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
長谷川穂積、2ダウンから壮絶勝利。
辰吉丈一郎と重なる傷だらけの姿。
posted2015/12/14 12:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
KYODO
長谷川穂積(真正)の父、元プロボクサーの大二郎さんはこのように語ったという。「やっぱり反応が遅い。まだまだ戦えると思うが、即引退してほしい」(日刊スポーツ)。
元世界2階級チャンピオンの長谷川が11日、神戸市立中央体育館にWBO世界スーパーフェザー級5位のカルロス・ルイス(メキシコ)を迎え、世界挑戦失敗からの再起2戦目に挑んだ。大二郎さんのコメントは、2度ダウンを喫しながら判定勝ちした試合の直後に発せられたものである。
「お客さんは喜んだんじゃないですか。そういう意味では良かった。圧倒的な試合を見せるつもりだったんですけど、ダウンを2回もしてしまった。まあ、今日はかんべんしてください」
長谷川はリングの上から自嘲気味にあいさつした。試合はヒヤヒヤ、ハラハラの“面白い”内容だった。まずは試合を振り返ってみよう。
対戦相手のルイスは長谷川のひとつ上、スーパーフェザー級の世界ランカーで、ここまでの戦績は14勝5KO1敗。試合はフェザー級リミットより500グラム重い57.6キロ契約で行われ、これは35歳の誕生日を目前に40戦目を迎える長谷川のキャリアで、最も重いウエートでの試合となった。
「つまらない試合」をする余裕はなかった。
長谷川はこの一戦を迎えるにあたり、ディフェンスを一つの大きなテーマに掲げていた。「つまらない試合をする」。試合前は自分に言い聞かせるように、そう語っていた。
しかし、試合開始のゴングが鳴ると、むしろディフェンスを強く意識していたのはルイスのほうだった。右のグローブをこめかみにしっかりとつけ、長谷川の左を絶対に防ぐという強い意志を感じさせた。それでも、ややスローなルイスに対し、スピードを生かした長谷川の立ち上がりは悪くないように見えた。
3回に試合は大きく動く。ラウンド終盤、ルイスの右ストレートがカウンターとなって長谷川のアゴに炸裂。長谷川はキャンバスに横倒しに。
会場が静まり返る。「負けたら引退」という長谷川の言葉が嫌でも頭を駆け巡る。ダウンから立ち上がった長谷川は口の周りを鼻血で汚しながら、脚を使い、懸命にボクシングを立て直そうと試みた。それはいったん成功したようにも見えたが、5回、同じような右をもらって再びダウンを喫した。
もはや「つまらない試合」などする余裕はなく、絶体絶命のピンチから、いかに勝利を手にするかが唯一のテーマとなった。