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井岡一翔、完勝でフライ級初防衛。
打たせず打つ戦術は“リングの解剖学”。
posted2015/09/28 11:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
WBA世界フライ級王者の井岡一翔(井岡)が初防衛に成功した。27日、大阪エディオンアリーナで行われた防衛戦は、同級10位の挑戦者、ロベルト・ドミンゴ・ソーサ(アルゼンチン)をまったく寄せ付けず、ジャッジ2人が119-109、1人が120-108のフルマークで判定勝ち。井岡らしさが実によく出た試合内容だった。
KOを期待していたファンの中には不満を感じた人もいたかもしれない。圧倒的な力の差を示しながらの大差判定勝ちは、えてして見ている者にそのような印象を与えるものだ。もう少し攻めれば倒せるのではないかと。
また、井岡自身の「しっかりKOを狙ってレベルの違いを見せたい」という発言が、スペクタクルな結末を期待させた。ただし、前日の計量後にはこうも付け加えていた。「雑にKOしてもしょうがない。打たせずに打つという自分のボクシングをしっかり見せたい」。
試合開始のゴングと同時に、井岡は攻撃的な姿勢を見せた。対するソーサは「ギュッ」と音が聞こえそうなほど両腕を絞り、顔面への攻撃を徹底して許さない強い意志を示した。「上へのパンチは当たらないと思った」。父でありトレーナーでもある井岡一法会長の予想した通り、ソーサはスピードがあるわけでも、目を見張るようなテクニックがあるわけでもないが、簡単に崩せる相手ではなかったのだ。
もう少し時間があればKOも。
ここから井岡は実に井岡らしいボクシングを披露していく。攻撃の軸はジャブだ。ジャブを突きながら距離を計り、ソーサが打ちに出たときはバックステップ、接近したポジションであればカバーリングで相手のパンチを防ぐ。あるいは右のカウンター。機を見て距離を詰めると、ボディブローをソーサの腹に突き刺した。
感情は決して表に出さず、冷静にリスクを回避し、瞬時にして正しい解答を探り当てるような緻密なボクシング。井岡の真骨頂である。コツコツ、コツコツと空いているところにシャープなパンチを打ち込み、少しずつ、そして着実に、チャレンジャーにダメージを与えていった。
終盤に入っても、井岡が築き上げたリングの秩序が乱されることはなかった。既にポイントでは圧倒的に優勢。チャンピオンは何度かギアを上げようと試みたが、その都度、ソーサが最後の力を振り絞るように攻撃に転じ、井岡はフィニッシュを自重したように見えた。それでも最終回には右アッパーをソーサの腹に突き上げ、心身ともにタフな挑戦者を悶絶寸前まで追い込む。もう少し時間があればKO、と思わせる幕切れだった。