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どれくらいできるのか? ではなくどこまでやろうかと考えること。
~『サバイバル登山入門』に学ぶ~ 

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幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

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photograph byWataru Sato

posted2015/02/04 10:00

どれくらいできるのか? ではなくどこまでやろうかと考えること。~『サバイバル登山入門』に学ぶ~<Number Web> photograph by Wataru Sato

『サバイバル登山入門』服部文祥著 デコ 2900円+税

 マムシとシマヘビはおいしくて、ヤマカガシは苦味があり、アオダイショウは生臭いのだと彼はいう。

 テントも時計もライトも持たず、できればマッチやライターなしの登山にも臨みたいと語る服部文祥は、四半世紀のあいだ山登りを繰り返している登山家だ。

 パキスタンのK2や剱岳八ッ峰北面など名だたる難関を20代の頃から踏破した服部。だが、20kgの荷物を8時間運び、1日400円の賃金を得るパキスタンのポーターたちを見ているうちに大きな疑問が頭を支配するようになった。物資に囲まれた生活をする者が経済格差を利用して荷物を持ち上げてもらい、わざわざ高峰に登る意味はあるのだろうか? ポーターたちの方がよっぽどタフでサバイブする能力があるのではないか? かくして服部は「サバイバル登山家」になる。装備に頼らず、食料や燃料を現地調達しながら、道なき道を自力でゆくのだ。

野で生きる技を写真とイラストを多用して伝える。

 この本は、そんな服部の登山技術を写真やイラストを多用しながら丁寧に伝える一冊だ。キノコはヒラタケ(栽培種はシメジです)とナラタケを覚えるべき。イワナを手づかみで捕まえる時は軍手をすると滑らない。屋外で寝る際は、ステンレスの茶こしを使って蚊を防ぐ。などなど、目から鱗の野で生きる技を次々と披露してくれる。

「安全で快適な自然」への憧憬ばかりが語られるご時世だからこそ、それが本来もつリスクに自覚的な服部の言葉は体に響く。独力で自身がどこまでできて、どこからが生かされているのかに敏感でいることが、生への実感につながるのだ。

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