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記録の神様が編んだONにまつわる最良の書。
~宇佐美徹也の『ON記録の世界』~ 

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馬立勝

馬立勝Masaru Madate

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posted2015/02/01 10:30

記録の神様が編んだONにまつわる最良の書。~宇佐美徹也の『ON記録の世界』~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『ON記録の世界』宇佐美徹也編著 読売新聞社 現在絶版

 ON本は数知れず。読んだ数は限られるが、ユニークで、最良、最高の一冊が本書、と断言してしまう。長嶋17年、王22年の全打席完全データを柱に、試合の様々な状況での記録が詰まっている。春、秋のオープン戦、日米野球、外国でのオープン戦の成績まで載せた。ここまでやらないと球界やファンから「記録の神様」とは呼ばれない。

記録=数字に血を通わせて不世出のONを描き切った。

 本書の魅力、面白さは、記録=数字に血を通わせ不世出の2選手の姿を描き切ったことだ。たとえば守備について。守備率だけでは守りの巧拙は分からない、と指摘し、「刺殺(飛球、送球を受けて直接アウトにした数)と補殺(ゴロや送球で間接的にアウトにした数)の合計」で守備レベルが分かる、と教える。長嶋入団前年の巨人三塁手のこの数字はセ・リーグ最低。長嶋はこれを71増やしてリーグ2位とした。前年守った3人の三塁手が安打にした71の打球を凡打に変えてしまう働き、と有無を言わさぬ説得力だ。1960年代後半からのこの数字の低下に、「人徳で下手になったと言われなかったが、動きは鈍り投手もかなり泣かされたに違いない」と遠慮なし。王は守りで衰えがなかったと数字で証明して、現役最後の年のセ一塁手最高守備率達成に「感嘆するばかりだ」とたたえる。

 記録で浮かぶ2人の性格の違いを随所で説くあたり、著者の独壇場だ。記録を吟味熟考して新たな視点を切り開く。眼からウロコの記録コラムが生れ、野球の楽しみが広がった。テーマごとに付くONのコメントに、2人も著者の記録解読の手際を楽しんでいたのがうかがえる。

 記録は宝だから著者は作為的な記録が許せない。自軍選手の記録を守る采配には抗議の手紙を送った。にらまれた監督の“弁明”を何度か聞かされたが、記録の鬼で連想しがちなとっつきにくい頑なさとは著者は無縁だった。下戸なのに小唄をやり、古典落語を愛した洒脱な人柄。記録分析の競馬予想がダメだったのも宇佐美さんらしい。いま記録は電脳機器の中に収まり、記録を微に入り細をうがって本にしたくなる選手も消えた。高度成長期、良き時代の野球記録集の頂点をなす一冊、こんな本はもう望めない。

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