ブックソムリエ ~必読!オールタイムベスト~BACK NUMBER

『七人の侍』の名場面で説く“柳生流”剣術の根本原理。
~前田英樹・著『剣の法』~ 

text by

馬立勝

馬立勝Masaru Madate

PROFILE

photograph bySports Graphic Number

posted2014/10/29 10:00

『七人の侍』の名場面で説く“柳生流”剣術の根本原理。~前田英樹・著『剣の法』~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『剣の法(のり)』前田英樹著 筑摩書房 2300円+税

「新陰流の刀法を実技面からかなり詳しく書いた」(まえがき)のが本書だ。著者は大学の現代心理学の教授で新陰流・武術探求会を主宰している。四百数十年も前の戦国時代に信綱を流祖とし、柳生宗厳(むねとし)に伝えられ、その子宗矩(むねのり)の代に徳川「御流儀」とされた新陰流。老人世代には講談や剣豪小説で“柳生流”とも呼ばれたおなじみの剣術。その「刀法が成り立つ根本原理を」語るのだが、武道教本ではない。ユニークな日本文化論を提示する思想書のおもむきだ。

 岩波文庫に柳生宗矩『兵法家伝書』がある。巻末に武士や天狗が立ちあう図入り古文書が付く。図には「逆風」とか「天狗抄」などと技の名がつけられ、候文の説明が難しい。著者はこれら太刀筋を身体運動とその動きが持つ思想的な意味までを含めて詳述する。

日本刀は稲作文化の「農具の粋を表す神器」なのだ。

 解説の技は、映画『七人の侍』の名場面をひく一節が好例だ。宮口精二演じる剣客・久蔵が浪人と青竹で試合をし、互いの左肩を打つ。「相打ち」という浪人に久蔵は「真剣ならばお主は倒れている」という。真剣で青竹試合と同じ動きが繰り返され、浪人は倒れた。「久蔵は左偏身(ひだりひとえみ/左足が前の横向き)の脇構えから一気に転じて右偏身(みぎひとえみ/右足が前の横向き)の袈裟切りで」浪人を倒した。久蔵は振りの速さで勝ったのではなく、浪人の刀を身を開いてはずし、その動きと一致した袈裟切りで勝った。「速さ」の問題を相手との「間合い」の問題に吸収しての勝利……と分かりやすい。DVDで確認し、納得した。

 うなずいたのは、日本刀は稲作文化の「農具の粋を表す神器」とする説。少年のころ刀をもてあそんでいると、ネコが下げ緒にじゃれ鞘が抜け、刃が指に触れた。痛みは感じないのに血が噴き出し驚いた。指はいまも痺れているが、消耗品の武器をなぜこれほど美しく造り、必要以上に鋭くし、曇りなく磨きあげるのか、疑問だった。「神器」なら当然だ。神器操作の術は人斬りの技を超え「型」の追求となる。刀を扱う無駄のない動きは、能や茶道の美しく簡潔な所作に重なり、日本伝統の「型の美学」に連なる。誤読だろうか。

関連コラム

ページトップ