REVERSE ANGLEBACK NUMBER
「野に怪腕あり」創価大・田中正義。
“柔らかさ”が生む驚異的な瞬発力。
posted2014/06/19 10:30
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
野球のようにアマチュアからプロへと人材発掘がシステム化されている競技では、「彗星のように登場する」新しい人はめったにいない。
「ああ、あの子は中学から話題だったよ」
神宮や甲子園のネット裏で事情通のおじさんがつぶやいたりする。それほどくわしくはないが、こちらも多少は関心を持って見ているので、各地の「ダルビッシュ2世」、「○○のマー君」の話は聞くことがある。しかし、創価大学の田中正義は全く知らなかった。
田中は2年生だ。高校の時はけがで途中から野手になり、大学に入って本格的に投手になったという。今年の全日本大学野球選手権に出場すると、1回戦の佛教大学戦で最速154kmを記録するなど150kmを超えるストレートを連発して4安打9奪三振の完封勝利を飾った。恥ずかしながら全く聞いたことのなかった名前なので、びっくりした。「野に遺賢あり」などというが、これは「野に怪腕あり」ではないか。創価大学はスワローズの小川泰弘を出した学校だが、いわゆる野球の名門、強豪ではない。甲子園経験者が黙っていても集まってくる大学でもないだろう。そこからこんな投手(しかもまだ2年生だ)が現れる。興味をそそられた。
フォームと球速のギャップの秘密は手首?
幸い今はよくしたもので、たいていの映像は投稿サイトで見ることができる。さっそく田中の投球を見てみた。投手はひとりでマウンドに立っていると体の大きさがよくわからない。ただ、ボールの握りや身のこなしなどは球場よりも正確に見ることができる。
1回から150kmを超えるストレートを投げていたが、投球フォームや体格からは、特にすごいなと思わせるものは伝わってこなかった。しかし、ボールは速い。このギャップはどこに理由があるのか。
ひとつ引きつけられたものがあった。手首の動きだ。映像でもはっきり動きがわかる。フィニッシュの瞬間、手首が柔らかくしなっているのだ。これにはちょっと驚いた。こういう手首の動きを見せる投手はあまり見たことがない。
創価大学は2回戦で優勝候補の亜細亜大学を破り準々決勝も突破して準決勝に進んだ。田中は完封のあとは2試合リードしてからリリーフで登板し、勝利に貢献した。特に優勝候補の亜細亜大学を破った試合では最速154kmのストレートを武器に5者連続三振を奪うみごとな投球を見せた。