「びっくりしましたよ。車に乗って窓の外を見ていたら、いきなり自分の大きな写真が現れたので……」

　越川優は、初めて広島を訪れた日のことをこう振り返って笑った。JTサンダーズへの移籍が発表された直後、猫田記念体育館の外塀には越川の写真が入ったV・プレミアリーグの開幕を告げる横断幕がすぐさま掲げられた。

「チームが僕に期待してくださっているのを強く感じますし、期待されることが自分の発奮材料にもなっています」

　期待の大きさを噛み締めるように、何度もうなずきながら語った。

「自分が出場しなくてもチームが勝つために貢献したい」

　越川は岡谷工業高時代の2002年に初めて全日本シニア代表入りを果たし、2008年には北京五輪に出場。2009年、イタリア・セリエA2のパドヴァに移籍し、チームのセリエA1（1部リーグ）昇格に大きく貢献した。先に閉幕したワールドグランドチャンピオンズカップではレギュラーとして全試合に出場。日本を代表するスタープレーヤーの移籍は今シーズンのV・プレミアリーグで最も注目を集めるニュースとなった。

　JTサンダーズは地元で迎えた開幕節を2連勝で終えた。

「結果的によかったと思います。“JTサンダーズは変わるんだ、変わったのだ”ということを見ている人にも、中でプレーしている選手にも示す必要があったと思いますから」

　JTサンダーズはここ7シーズン、セミファイナル進出を逃している。ヴコヴィッチ監督は「性格的にも、経験という点でもリーダーに向いている選手」と越川を評する。サントリーで優勝を経験し、国際舞台も数多く踏んでいる越川には、優勝争いを知らない若いチームをけん引する役割も求められている。

「チームに合流してわかったのは本当に素直で、向上心のある選手ばかりだということですね。熱心に僕の話に耳を傾けてくれる年下の選手の顔を見ていると、僕が伝えられることは全部、伝えたいし、たとえ自分が出場しなくてもチームが勝つために貢献したいと思えます」

Vリーグ、イタリア、日本代表で得たものを若手に。

　試合中には八子大輔、筧本翔昂ら若手選手に自ら進んでアドバイスを送る。勝負所でどう動くべきか。どう集中力を保つべきか。これまでVリーグ、イタリア、そして日本代表選手として培ってきた経験や技術を惜しげもなく伝えている。

「まずは勝つことを知ってもらいたい。今は僕が言っていることが勝つためになぜ必要か実感できなくても、結果が出れば“こういうことを言っていたのか”とわかってもらえるはず。そのためには、僕は嫌われ役でもいいんですよ」

　どん欲に勝利を求める越川の魂がチームに浸透し、JTサンダーズの復活につながることを期待したい。