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コミッショナーを提訴した、
A・ロッドの“言い分”。
~勇退間際、薬物禍の押しつけ?~ 

text by

四竈衛

四竈衛Mamoru Shikama

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photograph byYukihito Taguchi

posted2013/10/23 06:00

セリグ氏(右)と対決するA・ロッド。MLB側は「訴状の内容を強く否定する」とコメント。

セリグ氏(右)と対決するA・ロッド。MLB側は「訴状の内容を強く否定する」とコメント。

 薬物問題で揺れるヤンキースのアレックス・ロドリゲスが、大リーグ機構とコミッショナーのバド・セリグ氏を相手に、ニューヨーク州最高裁判所に訴訟を起こした。8月初旬、機構がフロリダ州のクリニック「バイオジェネシス」を通して薬物疑惑を調査した結果、ロドリゲスは証拠が発見されただけでなく、悪質な捜査妨害を行なったとして211試合の出場停止処分を科せられた。

 ロドリゲス側の主張によると、調査段階で機構側と協力者との間で多額の金銭授受があり、「証拠を不適切に集めようとした」というのが提訴理由だ。公式戦後、第三者を裁定人とした調停が始まった矢先だっただけに、衝撃的な一報だった。

 米球界を代表するスーパースターが、コミッショナー相手に裁判で争うという異例の事態となったが、その背景には来季限りでの勇退を表明したセリグ氏の思惑があったことも見逃せない。1992年、前任者の辞任に伴い、実質的な球界トップの座に就いて以来('98年に正式就任)、セリグ氏は強烈なリーダーシップを発揮してきた。リーグ再編と地区シリーズ導入、交流戦や海外公式戦の実施、WBC開催など抜群の行動力で改革を進め、市場を拡大。飛躍的な観客増、テレビ放映権収入増などに成功し、低迷していた球界全体に収益をもたらした。

在任中に薬物問題をクリアにしたいセリグ氏の意向か。

 一方で、'90年代後半からの薬物禍には長い間、目をつぶってきた。というのも、'94~'95年のストライキ以降、愛想を尽かしたファンを球場へ呼び戻すためにも、マグワイア、ソーサの本塁打狂騒曲に代表される、豪快な野球は不可欠だった。

 当時、球界内部で常習化されていた薬物使用問題にメスを入れたのは、2006年の「ミッチェル・レポート」が最初。その後、徐々に規制を厳しくしたのも、在任中に薬物問題をクリアにしたいセリグ氏の強い意向があると言われる。

 確かに、薬物使用でファンを欺いた事実は重い。だが、選手側からすれば、長い間、看過してきた薬物禍を、一方的な摘発だけで収束させようとする姿勢には疑問を感じるに違いない。ロドリゲスの提訴は、権力に対する、選手生命をかけた抵抗の側面もある。長年、球界が隠してきた陰の部分を、スター選手1人に押しつけてしまうような決着の付け方が、本当の解決になるとも思えない。

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