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<私とラン> 土井善晴 「ゴールした瞬間の幸福感には雑味がないんです」 

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photograph byAsami Enomoto

posted2010/11/18 06:00

<私とラン> 土井善晴 「ゴールした瞬間の幸福感には雑味がないんです」<Number Web> photograph by Asami Enomoto
いま全国で多くの大人がランに目覚め、汗を流し始めています。
走る目的もスタイルも、それぞれに異なる大人たち。
「Number」が初めて一冊まるごと“Doスポーツ”を特集した「Number Do」では、連続インタビュー企画「私とラン」で、彼らの「走る」を覗いてみました。
Number Webでは、雑誌未収録部分も掲載した「私とラン」特別編を公開。
第4回は料理研究家・土井善晴さんの「ランのカタチ」です。

 大阪では自分の住まいと仕事場というのが別のところにありましたけど、東京に出てきてからは、住まいと仕事場が一緒になって、通勤なんかもなくなってしまったんですね。便利になったな、くらいに思ってたんですが、しばらく時間がたってくると運動不足になってくる。体重も増えて、不細工になって。

 調理したり、盛り付けをしたり……この仕事は立っていることが多いでしょ。それが体力が落ちてきて、立ち上がるのもしんどくなった。それでも仕事のレベルを下げるわけにはいかないから、すごく頑張らなくちゃいけない。その頑張るというのが、言うたら機嫌が悪くなったり、周りに迷惑かけたりね。そういうことを繰り返していくと、自分の仕事に対して苦しくなってくるんですよ。それこそ10年前は自分は50で死ぬんちゃうかって思っていましたよ。

 それであるとき、自由が丘にあるスポーツ用品店でトレーニングパンツを買ったんです。ただそれだけで、翌日から歩き始めた。最初はね、もう走れないですよ。1km歩かないうちに、足が痛くて痛くて、途中でストレッチして、また歩くというぐらいのところからでしたから。でもね、歩いて3カ月もすると、「後ろ姿が変わった」とか褒められて。嬉しいし、そんなんで続けてたんです。

「ウルトラなんか完走したら、その幸福感が1カ月は続きますよ」

 そのうちにときどき歩くのが面倒臭くなるでしょ。早く済まそうと思って、ちょっと走ったりするようになってた。そんなときに「レースに出ないか」と誘われたんです。そうなると、レースに出るためにTシャツやシューズを買うことさえも楽しみとして蘇るんです。健康のためのものが、スポーツになった。自分とは縁のなくなってしまっていたスポーツがまた始まった、と思いましたね。

 フルであれ、ハーフであれ、ウルトラであれ、完走すると新しい自分が蘇るんです。「あ、今日も走り切れた」という自分が蘇る感じ。途中でとぼとぼ走ったり、歩いたりしてもね、「しっかり最後まで頑張れた!」というのはね、一番の自分への満足感なんですよ。人間って再生することが一番の喜びだと思うんです。若返るというか、再生する喜び。ゴールしたときは生きているという実感があるし、痛いこととかしんどかったこととかみんな忘れる瞬間ですよね。幸福感に雑味がないんです、むきだしなんです。ウルトラなんか完走したら、その幸福感が1カ月は続きますよ。

【次ページ】 ジムと外で走るのとでは「情報量が全然違う」。

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