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夜中の救急病院、ブラジルのトラウマ、
そしてフットボールしかない小さな国。  

text by

近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

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photograph byAtsushi Kondo

posted2013/06/29 08:01

夜中の救急病院、ブラジルのトラウマ、そしてフットボールしかない小さな国。 <Number Web> photograph by Atsushi Kondo

フッキことジオバンニ・ヴィエイラ・デ・ソーザ選手は、子供時代に読みふけったアメリカン・コミックの「超人ハルク」から母親につけられたあだ名を選手名として登録している。

カメラ片手に世界中を巡るフォトジャーナリストの近藤篤氏。
今回は氏の最新刊となる『ボールピープル』の発売を記念して、
コンフェデレーションズ杯の紀行エッセイを発表することとなりました。

日本代表が敗退してしまってからのコンフェデ杯。すっかり
日本人がいなくなった異国の地で、夜中に急病にかかる近藤氏。
それにもめげず、ブラジルvs.ウルグアイの試合会場に向かうが……。

 日本対メキシコ戦の夜、取材を終えてホテルに戻ったら全身にひどいジンマシンが出た。
こんなジンマシンは25年前、チリのサンティアゴでシオマネキの親玉のようなカニを食べて以来である。

 かなりひどかったので、ホテルの近くにあったLIFE CENTERという日曜大工センターのような名前の私立病院へ駆け込んだ。受付で事情を説明すると、係の女性が不機嫌そうに『問診だけで250レアル(日本円で約1万1000円)かかりますけど』と言う。

 払います、と答えると、15分ほどで診察室に呼ばれた。担当は40歳ぐらいの男性医師だ。

 

「どうしました?」

 シャツをめくってみせた。

「こりゃあひどい。なにか心当たりはありますか?」

 心当たり? 数時間前に終った日本対メキシコ戦を見て免疫力が下がったことぐらいだ。

「特にないです」

 治療室へ移されると、若い男性の看護師がやってきて、注射は2本で、そのうちの1本は臀部に打ちます、と説明した。

 ジーンズを下ろしておしりを出す。注射が終わり、意識が朦朧とする中、再びジーンズを引き上げていると、看護師が後ろでこう言った。

「イタリア戦はほんとにいい試合でしたね。日本の方が勝ちに値しましたよ!」

 たとえ午前零時の救急病院でも、ブラジルという国では、フッチボールは容赦なく語られる。

サンバ、ビール、美女……ブラジルの試合はまさにカーニバル!

 

 コンフェデ杯準決勝のカードはブラジル対ウルグアイ、スペイン対イタリアとなった。笑ってしまうくらい順当な組み合わせだ。

 フォルタレーザの試合はパスし、ジンマシンの夜から3日後の午後1時、ブラジル対ウルグアイ戦に出かけた。

 処方してもらった薬の影響なのか、まだ足元がふらつくが、ホテルのテレビで試合を見ているわけにもいかない。

 試合開始3時間前、ミネイロンスタジアム周辺の歩道はカナリアイエローのユニフォームを着た人々で再びごったがえしていた。見渡す限り、カナリア、カナリア、カナリア。トンボの眼鏡ではないが、僕の網膜もこの独特の黄色に染まりそうである。

 

 スタジアムを背景に記念撮影をする人々、サンバのリズムに合わせて踊るハルクの着ぐるみを着たハルク(ブラジル代表のフッキはHULKのポルトガル語読みです)、TVレポーターは通りがかりのサポーターを片っ端からつかまえて試合の予想をさせ、カメラアシスタントは可愛い女の子からメールアドレスを聞き出している。

 4日前の日本対メキシコ戦でも、たくさんのサポーターが試合前のスタジアム周辺で楽しんでいたが、この日の観客の出足はさらに早かった。もちろん気合いの入り方も全然違う。Brasil! Brasil! ブラジウ! ブラジウ! 誰かが叫び始めるとあっという間に大合唱となる。そして大合唱の後は、ビール、ビール、またビールだ。ブラジルの勝利にかんぱーい! ネイマールのゴールにかんぱーい! 目の前のゴミ籠はあっという間にビールの缶で埋め尽くされてゆく。

【次ページ】 ブラジル史上最も悲しい出来事、「マラカナッソ」。

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