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<西武躍進を支える投球術> 牧田和久 「強力打線を弄ぶ千手観音サブマリン」 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2013/05/20 06:00

彼が投げれば、130kmそこそこのボールが魔球に変わる。
いつだって飄々とアウトの山を築く球界随一の技巧派が、
並み居る強打者を幻惑する投球術の秘密を語った。

 食後に飲む、熱いお茶が好きだ。

 確かに、普段着の彼にはそんな姿がピンと来る。どんなに熱くても平気な顔をして、のどかにお茶をすすっていそうだ。

「でも、熱すぎるのは嫌です(笑)」

 こうだと決めてかかると、肩すかしを食らう。つかみどころがなく、いつでも落ち着き払っている。ライオンズの石井貴ピッチングコーチは、彼を評してこう言った。

「まるで、投げる前に打たれることを察知してるみたいだね。打たれそうだと思うと、スッと抜いたり、わざと外したり……ホント、あの人だけはわからない(笑)」

WBCでは「バットに当たることはない」と自信を持って投げ続けた。

牧田和久 Kazuhisa Makita
1984年11月10日、静岡県生まれ。平成国際大、日通を経て、'11年ドラフト2位で西武入団。初年度は先発で開幕を迎え、シーズン途中抑えに転向。22セーブを挙げ新人王を獲得。'12年は先発に戻り13勝を挙げた。3月のWBCでは抑えとして活躍。177cm、82kg。

 お茶どころ、静岡県出身の牧田和久。プロ3年目、28歳のアンダースローは、WBCでクローザーの大役を託された。紅白戦から壮行試合、強化試合、本戦を通じて1点も失わなかったのは、日本の投手陣の中で牧田だけ。目立ったピッチャーは前田健太でも、終始、安定感を示していたのは、表情ひとつ変えることなく、淡々と投げ続けた牧田だった。

「いや、すごく緊張しましたよ。ブルペンなんか、ひどいもんでした。でも、マウンドに上がるとスイッチが入るんです。そうするとまったく緊張しない。しかも、高めのつり球を外国人は振りますからね。高めのまっすぐにあのスイングをしてくれたら、ボールとバットに当たるところはないと思ってました」

 やれ国際舞台ではボールが滑る、アメリカのマウンドは固いと、日本のピッチャーには不利なファクターばかりが取り上げられていたが、牧田だけはどこ吹く風とばかり、飄々とボールを自在に操っていた。

「確かに滑るんですけど、あまり『滑る』と思うと滑ってしまうので(笑)、逆に『滑らない』と思うようにしてました。とにかく『今まで使ってる日本のボールと一緒なんだ』と思い込むしかなかったんです」

 ニヤッと笑う牧田。

 滑るボールを、滑らないと思い込むだけで滑らなくできるのなら、誰も苦労しない。

<次ページへ続く>

【次ページ】 滑る球、固いマウンドに対応できる引き出しの多さ。

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