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皇帝ヒョードル、1Rでタップアウト。
衝撃の番狂わせが生む2つの転機。 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byGetty Images

posted2010/07/04 08:00

皇帝ヒョードル、1Rでタップアウト。衝撃の番狂わせが生む2つの転機。<Number Web> photograph by Getty Images

 10年かけて築き上げられた伝説は、わずか69秒で崩壊した。

 6月26日、カリフォルニア州サンノゼで開催された『STRIKEFORCE』のメインイベント。“皇帝”と呼ばれ、MMAにおける最強の象徴だったエメリヤーエンコ・ヒョードルが、1ラウンド1分9秒でタップアウトしたのである。ジャイアント・キリングを成し遂げたのはブラジルの柔術家ファブリシオ・ヴェウドゥム。ほぼノーマークの相手だっただけに、その衝撃は凄まじいものだった。

 試合開始直後、まず攻めたのはヒョードルだった。大胆に圧力をかけ、フック、アッパーを連打していく。ダウンしたヴェウドゥムに覆いかぶさり、さらにパウンドで追撃していくヒョードル。誰もが、秒殺勝利を予想したはずだ。

 しかし、ここでヴェウドゥムが反撃に転じる。ヒョードルの左腕をキャッチすると腕十字、さらに三角絞めと連続攻撃。逃れようとするヒョードルの動きを制すると、首と同時にヒジを固める複合技へと移行した。観念したかのように、ヒョードルがヴェウドゥムの腿を軽く叩く。伝説崩壊の瞬間は、じつにあっけなかった。

理解はできても、納得のいかない敗因。

 ヒョードルの敗因は、いくつも想像することができる。政治家への転身が噂されるなど、闘いに100%集中できる状況ではなかったのではないか。KOのチャンスに攻め急ぎ、相手の得意分野である寝技に付き合ってしまったこと。ヴェウドゥムは試合後に「汗をかいていない1ラウンドだから、滑らずに技を極(き)めることができた」と語っている。

 ただ、どんな理由も理解はできるが納得はできない。ヒョードルは2000年のプロデビュー以来、34戦して32勝1敗1無効試合というレコードを残している。1敗も、アクシデント的な出血ドクターストップだ。ミルコ・クロコップやアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラといった強敵を下してきたし、幾度となく迎えたピンチもクリアしている。勢いや偶然に頼る要素のない強さを持っていたからこそ、ヒョードルは伝説になったのだ。

 どんな強豪でも負ける時はある。勝負に絶対はない。そんな常識的な表現は、ヒョードルだけには当てはまらないはずだった。だが、現実としてヒョードルはギブアップの意思表示をしたのである。半ば神格化されていた男でさえ、現実に呑みこまれた。そのことが、世界中の格闘技ファンをよりいっそう打ちのめした。事実はあまりにも重く、しかしそれ以外には何も残されていなかった。

【次ページ】 時代の終わりと新メディアの勃興。

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