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没後40年で浮かぶ残影。
大場政夫の精神は死なず。
~帝拳ジム会長が明かした真実~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2013/01/25 06:00

没後40年で浮かぶ残影。大場政夫の精神は死なず。~帝拳ジム会長が明かした真実~<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

 この1月25日で、大場政夫が死んで丸40年となる。

 現役の世界王者が愛車を運転中、高速道路でトラックに激突死するという痛ましい出来事は当時、日本中に衝撃を与えたものだった。

 その3週間前にはタイの“稲妻小僧”チャチャイ・チオノイと死闘の末、12R逆転KO勝ちで世界フライ級王座5度目の防衛に成功したばかりだった。事故は試合の後遺症のせいではという説もあったが、これはどうか。相手のパンチを一瞬で見切る技を磨くボクサーには、過信からそれと自覚せずに高速で車を走らせる者も珍しくない。大場もそのひとりだったのではないか。

 大場については「車の運転中に誰かに抜かれたら、抜き返さないではいられない性分だった」という証言もある。何度か取材した印象でも、負けん気の強さは相当なもので、これがボクサーとしての資質の重要なファクターでもあった。

ハングリーな社会から出てきた最後のリングのヒーロー。

 高度経済成長期に東京下町に育ち、中学を出て帝拳ジムに入門した時、ハンバーグを出され「こんなおいしいものを食べたのは初めて」と喜んだという逸話もある。「世界チャンピオンになって両親のために家を建てる」と言って実現させた大場は、ハングリーな社会から出てきた最後のリングのヒーローだったと思う。

 本田明彦会長ら関係者に改めて大場の話を聞き、初めて知らされた事実がある。近年世界王者はノンタイトル戦をやらなくなったが、大場は4度も経験している。通常ノンタイトル戦は調整を目的として体重を増やして闘うが、大場の場合はノンタイトル戦までに一度体重を落とすことで、タイトル戦に向けて二段階で減量をしていたという。それほど減量苦が深刻な問題だったのだ。「チャチャイ戦を最後にバンタム級に上げるつもりだった」(本田会長)という。事故がなければリング史も変わっていたに違いない。

 先日引退した西岡利晃は'00年に帝拳ジムに移籍した際、真っ先に大場の墓に詣でて偉大な先輩に挨拶した。

「逆境に立たされながらそこから盛り返す気の強さはすごいと思ったし、ストレートが真っ直ぐ伸びるきれいなボクシングにも影響を受けた。右と左の違いはあれ、僕の目指したものと一緒です」

 帝拳ジムに大場の遺影はなくても、その精神はしっかりと継承されている。

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