野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
古木克明最新報告(トライアウト篇)。
30代無職、野球バカの挑戦、再び。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byAkihiro Saga
posted2012/11/20 10:31
11月9日のトライアウトには大相撲の峰崎部屋の勧誘ビラも配られた。格闘家に転身したこともある古木は「その道を選ぶならチャレンジしたらいいと思う。人生経験で変わってくる」とコメントした。
どこを落としどころにするのだろう。
ここ最近、そんなことばかり考えていた。
昨年10月に古木克明がプロ野球界復帰を宣言してから丸1年が過ぎようとしていた。
復帰戦となった昨年11月のトライアウトでは、二次で結果を残しはするも12球団からの連絡はなし。年を越え、2月のキャンプイン、3月のペナント開幕、支配下登録期限の7月31日。絶望的に長い夏。クライマックスの秋。音沙汰のないまま巡る季節。それでも背中を押し続ける声。そして、復帰後2度目のトライアウトがやってくる――。
現役時代、長距離砲として天性の才能を有しながら、自らの意志を貫き通す強さを持ちきれず、自分の打撃を見失い、ついでにドライアイでボールも見失い、さらには野球まで見失って格闘家へ転身。一転、野球界復帰と、迷って、迷って、ブレ続けてしまった数奇な野球人生。
その後悔は余程のモノだったのだろう。古木はこの1年間どんな苦しい状況に置かれても、スキをついてやってくるブレへの誘いにも負けず、「何があっても野球界へ復帰する」と言い続けた。トレード志願をガソリンスタンドの店員に諭され翻意していた昔とは違う。男31歳、その精神的な成長に驚くと共に、今回の覚悟が本物だったことがわかる。
それだけに。
このトライアウトを最後に引退するのではないか。なんとなく、そんな予感があった。
ファンの期待に応えた「あーっと!」なトライアウト。
2年連続3回目のトライアウト前日。
“何があっても、古木は古木らしく歩くしかない”
古木は自身のFacebookにそんなことを書き残して、仙台へと旅立った。
何かの決意が秘められたような旧横浜時代のユニフォームでKスタのグラウンドに現れた古木は、グラウンドで白い歯がこぼれるほど、本当に楽しそうに野球をやっていた。
対戦結果6打数1安打2三振1四球ながらも、木田から放ったあわやホームランの大飛球は惚れ惚れするような打球の伸びを見せてくれた。「人がいないから」と頼まれたので外野用のグラブで内野を守り、ついでにサードの守備でやらかして、スタンドを大いに沸かせてもくれた。その瞬間はネット上では「あーっと!」、「あーっと!」、「あーっと!」、「あーっと!」、「A-to!」の文字が世界中を駆け巡る。その様はもはやアート。
この存在感。捕えた時の打球の質。ホットケナイ感じ。人の良さ。すべてが古木克明だった。