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<日本卓球の至宝、覚悟の告発> 水谷隼 「世界の卓球界を覆う違法行為を僕は決して許さない」 

text by

城島充

城島充Mitsuru Jojima

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photograph byTakanori Ishii

posted2012/11/20 06:01

<日本卓球の至宝、覚悟の告発> 水谷隼 「世界の卓球界を覆う違法行為を僕は決して許さない」<Number Web> photograph by Takanori Ishii

なぜ、補助剤が使用されるようになってしまったのか?

 卓球を知らない人にはわかりにくいでしょうが、補助剤が登場した経緯を簡単に振り返っておきます。

 2008年の北京五輪までは「スピードグルー」という接着剤を僕を含めたほとんどの選手が使っていました。ラバーをより弾ませるために、この「グルー」を大量に塗り込んでラケットに貼り合わせていたのです。ゴムの分子と溶剤の分子が結合して膨張するのは補助剤と同じですが、グルーは有機溶剤が主成分なので、人体への影響が懸念されていました。

水谷隼 Jun Mizutani
1989年6月9日、静岡県生まれ。ドイツでの卓球留学を経て、'07年、史上最年少の17歳で全日本王者に輝き、同年から史上初の5連覇達成。青森山田高から'08年、明大に進学。'09年世界選手権ダブルスで銅メダル獲得。北京五輪より2大会連続五輪代表。172cm、66kg。

 グルーの使用が禁止されたのは、'07年にグルーを塗っていた日本の選手が意識不明の重体になった事故がきっかけです。日本卓球協会がいちはやくグルーの使用禁止を選手に勧告し、ITTFも北京五輪後にグルーの全面禁止に踏み切りました。同時に、ラバーに接着剤や接着シート以外の付加的な処理、いわゆる「後加工」を禁じることもルールに定めたのです。

 初めてグルーを塗らないラバーで打った時、全然弾まないし、摩擦力も落ちて愕然としたことを覚えています。同じラバーを使っても、感覚がまったく違うんです。いろんなラバーを試し、違和感なく打てるようになるのに2カ月ほどかかりました。

 しかし、グルーと同じ感覚を求めた一部の選手は、新たな方法でラバーを弾ませることを考えました。それが、補助剤です。もちろん、補助剤を塗る行為は「後加工」にあたりますから、補助剤はこの時点で卓球界に存在してはならないものだったのですが……。

考えられないボールの回転や速度、金属を叩くような打球音。

 半年もしないうちに補助剤を使っている選手が何人か現れました。いつ、誰がどこで最初に使ったのかはわかりませんが、'09年4~5月に横浜で世界選手権が開かれたころにはかなり増えていたと思います。

 対戦すると、ITTFに公認されたラバーの性能では考えられないスピードと回転でボールが返ってくるし、金属を叩くような打球音が会場に響くからわかるんです。

 僕たちはミリ単位の繊細な感覚で技術を競っています。補助剤を塗った選手との試合を100m走にたとえれば、スタートラインの10m先に相手のスターティングブロックが設置されているようなものなんです。大事な試合で違法ラバーを使う選手に負けるたび、もし、補助剤がなかったら……と考えないわけにはいきませんでした。

【次ページ】 用具ドーピングを見抜くはずの検査方法にも問題が。

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