野球善哉BACK NUMBER
佐久長聖と松阪に、名将あり――。
甲子園初戦で散った“隠れた名監督”。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/08/31 10:30
佐久長聖の藤原弘介監督(右)はまだ38歳。松阪・松葉健司監督(左)は44歳。これからどのように高校野球界を変えていくのか……楽しみな存在。
褒めて伸ばす指導法で甲子園にたどり着いた松葉監督。
「子供たちにはすごい力がある」
そう話すのは久居農林高校に続いて、母校・松阪を春・夏通じて、初めての甲子園に導いた松葉監督だ。実業高校と進学校を甲子園に出場させるという実績だけでも、その手腕はかなりのものだと想像できる。
松葉の野球のキーワードは集中力だ。
「子供たちがなぜ野球をやっているかと言ったら好きだからやっている。好きなものには集中しますよね。でも、『集中せぇよ』といいながら、彼らの集中力を奪っているのは、我々、指導者や大人なんです。子供に任せてあげて、サポートに回る。認めて、誉めて向かわせる。そうするだけで、子供たちはすごい力を発揮しますよ」
久居農林高時代は部員3人からのスタートだった。次第に部員が増えていく中で感じることも多かったと語る。
「いま思うと、僕の指導の原点でした。勉強もそうだと思っているのですが、例えば、英語と数学。英語はいいけど、数学はできない。そんな子に数学の点数を上げさせに行くと、全体の成績が平均的になってしまうもんなんですね。低いレベルではありましたが、久居農林の子たちは、バッティングに自信があったので、そこを高めていくと、他の面も一緒に上がってきました。
その子らに、『欠点克服法』ではなくて、『長所進展法』を気付かせてもらいました。今までは『やってもどうせ』と口にしていた子たちのエネルギーがあがりました。バッティングが好きだからと、そこを高めていって、やがて点が獲れるようになったら、それで自信がついたのか勝手に守備やピッチングも始めた。どんどんやるんです。こっちが止めても、隠れてやっていました」
短い練習時間で最大限の効果を得る集中トレーニング。
松阪では集中トレーニングをチームに取り入れた。
松阪は19時に完全下校となるため、練習時間は2時間から2時間半程度しかない。集中して練習に取り組む必要があった。
甲子園で有名になったのは、テニスボールを地面に置いて、積み上げていくというトレーニングだ。集中力を高めていくことで、普段のキャッチボールでも、ボールの縫い目が見えるまで集中することができるのだという。
「野球の本質を理解することです。攻撃の本質、守備の本質。攻撃は先の塁に進むことですし、守備は逆に先の塁にいかせないこと。それさえ、整理されていれば、集中して取り組めばいいだけのこと」と松葉は言う。