プロ野球亭日乗BACK NUMBER

ある少年ファンの言葉を胸に、
辞任した高田繁監督が描く“夢”。 

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

PROFILE

photograph byShigeki Yamamoto

posted2010/05/31 10:30

ある少年ファンの言葉を胸に、辞任した高田繁監督が描く“夢”。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

ヤクルトの今季成績は13勝32敗1分(5/26現在)。今後は休養に入る高田監督に代わり、小川淳司ヘッドコーチが監督代行として指揮を執る

球団が慰留したにもかかわらず辞任した真相とは。

「(この日の楽天戦の)勝ち負けは関係ない。これだけ騒がせて、選手が思い切って野球に打ち込める状況ではなかった。今朝、家を出る時点で腹は決まっていました」

 ここ数日は一般紙を含めた新聞の紙面で、進退問題が何度も取りざたされた。

「ヤクルトはリストラ的なことはしない」

 鈴木正球団社長はこう語って慰留に努めた。

 その中で高田監督を最後に辞任へと決断させたのは、ある少年ファンのひと声だった――そう報じたのは、5月26日付の朝日新聞だった。

「高田、やめちまえ!」

 試合前には必ずファンへのサインに応じる監督に浴びせられた、少年ファンからのヤジ。このひとことで監督の戦意は一気に失われた、と辞任発表の当日、同紙は報じている。その日の楽天戦で9連敗。泥沼から抜け出すことができないままに、監督はファンの声に背中を押されて“辞任”を決意した。

プロの世界はこれで最後。少年野球への夢を追いたい。

「次は少年野球の指導をしたい」

 まだ、今季が始まったばかりの頃、高田監督が親しい知人に漏らした“夢”だった。

 一部では監督退任後はGM就任などのウワサが流れた時期もあったが、実は早くから3年の任期を終えたら、プロの世界とは決別することを決めていた。今度は若手の選手ではなく、もっと小さな子供たちに、「次の次の世代」に野球の魅力と楽しさを伝えたい。そう決めていたのだ。

 だからこそ少年ファンから浴びせられたひとことが、たまらなく重く感じられたのかもしれない。

BACK 1 2
東京ヤクルトスワローズ
高田繁

プロ野球の前後の記事

ページトップ