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全てを賭けて積み重ねた、
小久保裕紀の2000本。
~満身創痍で“偉業”達成へ~ 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2012/07/07 08:00

全てを賭けて積み重ねた、小久保裕紀の2000本。~満身創痍で“偉業”達成へ~<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

「センター返しのヒットならいつでも打てる」

 三冠王に3度輝いた落合博満の言葉を思い出したのは、6月24日の小久保裕紀の第2打席だった。来た球を素直に打ち返しての中前安打で、プロ野球史上41人目の2000本安打を達成したのだ。

 快挙まであと1本と迫った5月25日、椎間板ヘルニアのため登録抹消。精密検査の結果、重症と診断されたがハリ治療などで回復させた。リハビリの最中、「どんな形でもいいから早く1本打ちたい」と話していた男は、見事に復帰初戦で決め、こう語った。

「ずっと僕を見守ってくれる(福岡の)ファンの前で打ててよかった。困難を乗り越えた分、喜びは大きかった」

 19年間のプロ野球人生は“困難”の連続だった。プロ入り4年目の'97年、脱税事件で8週間の出場停止という重い処分を受け、'03年には右ひざ靭帯断裂で1年間を棒に振った。チームの日本一を横目に見ながら、異例の無償トレードで巨人に移籍。別れを惜しんで福岡の練習場に集まったファン一人一人に、涙ぐみながらサインをしていた姿が忘れられない。'07年、福岡に戻った後に、家庭も失い、まさに“ゼロからの出直し”だった。

あと1本での登録抹消に「自分らしくていい」。

「人生、無駄なことはないと考えて野球に生かします」と語った小久保の決意は昨年の日本シリーズで実る。登録抹消中の9月に極秘渡米し、選手生命を賭けて首にブロック注射を打った。なんとか間に合わせたシリーズでは25打数8安打とMVPに輝く活躍。身体にメスを入れること8度、満身創痍の野球人生で、ソフトバンクを初めての日本一に導いた。

 そして迎えた今シーズン。稲葉篤紀、宮本慎也が2000本を達成する中、あと1本での登録抹消に「自分らしくていい」と笑いながら、「ヒット狙いのバッティングで出場を続けたらスイングスピードが落ちてしまう。練習では100%の力でバットを振り、試合では80%の力で行け、という王貞治会長の言葉があったから今の自分がある」と続けた。その言葉通り、力を抜いたスイングで叩きだした“偉業”だった。

「まだまだ若いし、当分現役だね」

 と声をかけると、返ってきた言葉は、

「人を年寄り扱いせんといて下さい」

 彼らしいセリフだった。

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