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<智将、最後の挑戦> 落合博満 「非情を超える激情で」 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2011/11/01 06:01

<智将、最後の挑戦> 落合博満 「非情を超える激情で」<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto
8年間の監督生活の中で、短期決戦に勝つための非情さを身につけた。
だが今年は、落合にも計算できない力が働く。それは選手の“心”だ――。

 落合竜は短期決戦に強い――。こう言われるようになったのはいつからだろう。おそらくこれは、リーグ2位から53年ぶりの日本一まで駆け上がった'07年に起因している。CS第1Sで阪神に2連勝、続く第2Sでは巨人に3連勝で日本シリーズへ進出した。特に巨人との第2Sの第1戦では、リリーフだった小笠原孝を中3日で先発させ、相手の度肝を抜いた。巨人ベンチに「無茶苦茶だ!」と言わしめたサプライズ先発で勝利すると、そのまま一気に押し切った。

 そして極めつけは、その勢いで戦った日本シリーズ。王手をかけた第5戦、1-0の9回、完全試合ペースだった先発山井大介を岩瀬仁紀に交代させた。勝つために、人間はここまで情を捨て去れるのか――。勝利だけに徹した、この采配のインパクトはあまりにも強烈だった。

 だが、そもそも落合博満は「CS反対論者」であり、指揮官としては短期決戦向きではない。CS導入が議論された時、真っ先にこう言い放った。

「オレは反対だよ。ペナントレースの価値はどうなる。もし、やるというなら日本シリーズという名称も変更しないといけないだろう。日本一決定戦じゃなくなるんだから」

8年間、「年間計画」に大幅な狂いが生じなかったという事実。

 己の信念に反する“敗者復活戦”を真っ向から否定した。そして、その裏には、自らの計算が及ばない短期決戦への苦手意識も見え隠れする。落合は目の前を1歩ではなく、3歩先を歩むことを常としている。毎年、開幕直前、全幅の信頼を置く右腕・森繁和ヘッドコーチが各投手の勝ち星を想定する。それを基に落合は年間計画を立て、4月の1試合目から10月の144試合目までのシミュレーションを行なう。黒い手帳に記された、その数字の合計は、だいたい優勝ラインの80勝前後。驚くべきは、8年間、この「年間計画」に大幅な狂いが生じなかったという事実だ。

「周りとオレとでは見ているところが違うんだ。みんなは、この試合の勝敗だけを見ているかもしれない。でも、オレはシーズンをトータルで見ている。見ているところが違うんだから、話が噛み合わないはずだよな」

 落合が敗戦の後、余裕のコメントを残す理由がここにある。遠征に出る前の晩、カバンに荷物を詰める。必要なものすべてが整頓され、あるべき場所に納められたそのカバンには、ペットボトル1本入る隙間もない。電話がかかってきそうな相手には先に電話をかける。春には秋のことを、夏になれば来春のことを考えている。

【次ページ】 非情采配は、高い授業料の末に見つけたオレ流の答え。

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