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11カ月分で振り返る「今季のベッカム」。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/06/15 00:00

11カ月分で振り返る「今季のベッカム」。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 レアル・マドリーが馬鹿げた試合で大敗するのは、もはやニュースではない。チャンピオンズリーグ予選参加によるアジア・アメリカツアーの短縮も、"銀河の戦士たち"の思惑どおり、とさえ言える。

 3冠狙いの大風呂敷は、クラブ史上初の5連敗、前代未聞のベルナベウ4連敗のボロ雑巾に変身し、こっそりとたたまれた。ゴージャスなスーパースターたちの競演のはずが、最終戦には4人もの"パボンたち"が出場。ジダン、ベッカムの姿はなかった。

 そのベッカムはレアル・マドリー残留を正式に発表したが、ロナウドの得点王獲得と同様、極めて冷淡に受け取られている。果たしてファンは本当に歓迎しているのかどうか。

 こんな寂しい幕切れを、「アラ!マドリー!(マドリー万歳!)」とベッカムが叫んだとき誰が予想したろう。

 7月3日、裸足で現れた王様は、23番のユニフォームを1時間に200着のペースで売り、厳重な警戒をくぐり抜けた男の子を抱け上げ、シャツを脱いでプレゼントした。好漢ベッカム、商売人フロレンティーノ会長のコンビの船出は順調だった(王様は裸足だった――崩れ始めたサッカーと商売の境界)。

 そして熱狂のアジアツアー。"仲間外れ"報道もあったが(「ベッカム孤立」?、「言葉の壁」? 誇大報道とメディアの反発)、ベッカムと仲間たちは熱烈な歓迎を受けた。8月3日にはただの練習に4万5000人が東京ドームを埋めた。中身はただの練習だったが、有料だった(8月3日・東京ドームで披露された"お猿の劇場")。

 ベッカムの公式戦デビューは、8月24日のスーパーカップ、マジョルカ戦。が、ここでアジアのヒーローはつまづく。アジアツアーでの「移動→有料練習→ 試合→夜遊び」の連続が彼の足を止め、右ボランチという新ポジションにも戸惑った。ベッカムの"マケレレ化"、最初の挫折だ("いい人"ベッカムに押し付けられた損な役回り)。

 ところが、その1週間後に大ブレイク。スーパーカップとリーグ開幕戦で連続してゴールを決める(この時、まさかわずか3ゴールでリーグ戦を終えるとは誰も思わなかった)。本業の右サイドへベッカムを戻し、守備の綻びは全員の運動量アップでカバーする、という、ケイロス監督のやり方が的中したのだった(生きる道を見つけたか? 突然の大活躍のわけ)。   

 新スターの登場をゴシップの女王が見逃すはずがない。9月中旬には最初の"不倫"騒動(ベッカム様ご用心、ゴシップの女王が狙っている!)。200ユーロという史上最高値のチケットも登場し、誰もが彼のご利益にあやかろうとした(ベッカム便乗値上げ。200ユーロ、チケットの衝撃)。それと同時に、ベッカムはサッカーファンの心をつかみ始める。ケイロス監督はベッカムをボランチに再配置。グラウンド外の貴公子は、グラウンド内では、走り、スライディングタックルし、泥まみれになる肉体労働者だったことに、我々は驚き、賞賛を与えた(ディフェンダーとしてのベッカム 豊富な運動量と未熟なテクニックの関係)。

 とはいえ、ベッカムはただのいい人ではない。9月、10月のヨーロッパ選手権予選では、マケドニアとトルコの選手と小競り合いを起こし、唾吐き(未遂)と頭突き(未遂)を披露。貫禄あるワルぶりで、深みを感じさせた(ダークサイド・オブ・ベッカム)。まずプレーヤーとして認められたことで、金髪・青い目のベッカムは、スペインでも正式にアイドルとして迎えられた。(ベッカムがアイドルになれない理由――スペインサッカー界の仕組みとファン意識)(ベッカムはなぜ美しいのか? アジアの熱狂と美の屈辱)。

 11月27日、バッキンガム宮殿にて、エリザベス英女王からベッカムに名誉大英勲章第4位(OBE)が授与される。夫に寄り添うビクトリアの姿は好感度を上げ、一時的にだが離婚報道をかき消した(銀河系の妻たちとビクトリアの好感度)。12月11日には国連開発計画の貧困撲滅チャリティーマッチに出場。が、それもゲイ雑誌の表紙を飾り、横紙破りの言動とファッションで社会を挑発するベッカムにとっては、主張の一部でしかない(慈善活動と、"同性愛者のアイドル"の関係)。

 2004年になって、快調に首位を走っていたレアル・マドリーに暗い影が射し始める。プレーに精彩を欠き、危険なベッカム依存、ロナウド依存、ジダン依存……の兆候が見え始める(ベッカムがいれば……。ベッカム依存が進むレアル・マドリー)。その一方で、今夏の日本ツアーが決定、東京でのサッカー学校開設も発表された。ベッカムを目玉商品とするレアル・マドリーの日本市場参入は、新たな段階に入った(蜜月関係に入った日本市場とレアル・マドリー)。

 2月に入り、ベッカムのチェルシー移籍の噂が強くなる。が、本人は否定。レアル・マドリーを愛しているからではない。ジダン、ロナウドらの天才とのプレーは、金よりも明らかに価値があるからだ(天才に囲まれてプレーする喜び)。そんなベッカム最大の危機は、2月7日に訪れた。"パボンたち"を信用しないケイロス監督は、下痢に苦しむベッカムをグラウンドへ放置。彼は顔面蒼白でプレーを続け、お腹をさすりながらマスコミをアテンドするプロ意識を見せ、お腹は下したが株を上げた(レアル・マドリーで過ごした「最悪の15分間」)。2月21日には、『緊急特番!密着6か月 ベッカム夫妻の真実!』が日本でオンエアされる(『ベッカム夫妻の真実!』の真実)。その頃スペインには偽ベッカムが出現。スーパーで生理用品を買ったり、有名美術館に現れ大騒動を起こしていた(偽ベッカム出現! あなたならどうする?)。

 3月、レアル・マドリーの転落とともに、ベッカムの貢献度にも疑問符が付き始めた。マケレレが去りベッカムが加入しながら、得点力は昨季よりもダウン。自慢のフリーキックは錆びつき、アシストも決められない(『ベッカムは役に立っていない』か?)。チームは国王杯を失い、リーグ首位の座に火がつく。チームと自分の不調に憂慮したベッカムは、ニューヨークでの誕生パーティーを計画し浮かれる妻ビクトリアを一喝。"実は亭主関白"と噂になる(カッコ悪い? 尻に敷かれる"銀河の戦士)。そんな折も折、元秘書が不倫を暴露。チームは急降下、プレーは悪化、プライベートでは叩かれる、の泣き面に蜂の状態に(ベッカム不倫を叩く"聖人"たち)。

 ここからベッカムとレアル・マドリーは、一気に奈落の底へ落ちる。

 足が止まり、モラルの下がったチームは、もはや審判のミスジャッジなどでは救えない("レアル・マドリー贔屓"の真相)。スターの座を争うはずだったロナウジーニョとの対決にも敗れ(あえて言う「べッカムVS.ロナウジーニョ」)、バルセロナに2位の座を脅かされる。ゴージャスなスターを集めた金持ち軍団への反感は、アンチマドリディスタ(反レアル・マドリー主義者)という巨大な敵意となり、チームと選手たちを飲み込んでいった(敵意と不協和音の中で沈むレアル・マドリー)。"ジダンたちパボンたち"という補強策の失敗に終わり、ケイロス監督の解任が事実上決定。ボランチ、ベッカムの限界が明らかになった(ボランチ=ベッカムの限界。技術と戦略の穴)。アジアツアーを回避するためにわざと負けているんじゃないか、と疑われるほどの惨敗が続き、ベッカムは罵り言葉でスペイン語のレベルを披露……(レアル・マドリーは日本に来なくていい)。

以上が、「今週のベッカム」ならぬ「今季のベッカム」。足掛け11カ月にわたる追跡の結果だ。

 こうして振り返ると、ベッカムはレアル・マドリーとともに浮き、そして沈んだことが、よくわかる。「来季のベッカム」がどうなるかはわからない。ただ、ショービジネスとしてのサッカーを体現するベッカムと、最強クラブかつ最強ビジネスを志向するレアル・マドリーは、周りがうらやむほど理想のカップルではなかった。

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