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吉田秀彦の闘争心に火はつくか。 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySusumu Nagao

posted2007/11/13 00:00

吉田秀彦の闘争心に火はつくか。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 木枯らしも吹き格闘技の季節である師走が近くになってきたが、今年はご存知のようにPRIDEが事実上消滅したため、格闘技を取り巻く大晦日の状況は、全体的に見てもトーンダウンといった感じである。スケジュールが決まっているのはTBS系列で放映される『Dynamite!!』のみ。しかしながら、発表されているカードはインパクトに欠け、いまいちパッとしないのが現状である。HERO'Sにヒョードルが参戦とか、旧PRIDE勢が集まり独自の興行を行うといった噂は立つものの、どれもこれも具体化していない。度肝を抜かれるようなビッグサプライズはなく、何だが寂しいかぎり……。

 そんな中にあって、去就が気になる日本人大物選手といえば、吉田秀彦であろう。

 稀代の柔道王も昨年末のジェームス・トンプソン戦以来、リングから離れてしまっている。それもこれもPRIDEの再開を純粋に心待ちにしていたのだから仕方のないことだ。

 「まったくの寝耳に水でした」

 とは吉田の談である。

 「拍子抜けですよね。PRIDE一筋で頑張ってきたわけだし、愛着もありましたから」

 残念そうな表情をしながら、さらに続ける。

 「イヤな予感はあったんですよ。ほら、春に六本木ヒルズで買収の記者会見があったじゃないですか。あの時から何か変な感じだなとは思っていたんですけど……」

 杞憂していた予感は的中し現在に至るわけだが、吉田は今後、国内の興行を優先し復帰を目指すことになる。もちろんPRIDEがない以上、HERO'Sも視野に入っており、取りざたされている秋山成勲との試合の可能性もあるという。

 ただ、現時点で参戦有力と囁かれているのは、10月15日に記者会見し設立を発表した新たな総合格闘技団体『ワールドビクトリーロード』(以下WVR)である。

 吉田は新団体で出来ることについて肯定的であり、その必要性を説く。

 「新しい格闘技団体ができないと格闘技は盛り上がらない。PRIDEとK−1、あるいはHERO'Sがそうだったように、団体間の競い合いがなければ競技は盛り上がらない。きっと日本の総合格闘技がHERO'Sだけになったら人気はさらに下がってしまうような気がします。そうならないためにもライバルになる団体が必要でしょう。そして、できれば……」

 できれば、何だろう?

 「今回は、両方の団体が仲良く協力的であったらいいですよね」

 そう言うと吉田は笑顔を見せた。

 また吉田のWVR参戦の可能性が高いとする根拠は、吉田の所属する事務所のJ−ROCKがWVRに協力的なことからも窺える。ただ、今後いつWVRの興行が行われるか、はっきりとした日程が出ていないため、この団体がどうなっていくか、選手たちの受け皿になっていけるのか分からない部分も多い。

 吉田もすでに38歳。戦える時間は限られており、そうそう悠長には構えてはいられない。本人としても「モチベーションの上がる相手がいれば……」と、戦える準備はしている様子だ。ヴァンダレイ・シウバや小川直也のように吉田のハートに火をつける選手はいるのか。本人は「大晦日は年越しソバ食って、人並みに」などと言っているが、まさかの『Dynamite!!』サプライズ参戦も含め、吉田の動向にまだしばらくは目が離せられない。

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