「もしも優勝したら泣きますか?」
準決勝翌日つまり決勝の3日前、そう尋ねられた指揮官佐々木則夫の回答が面白く、かつ印象的だった。
「いやー泣かないでしょう。もしもU-20の若いチームが優勝したんだったら分からないけれど、僕はなでしこたちの強さを知っているから、まあ泣かないと思う」
「女性のことを強いなんて言ってはいけないか……」などと笑いながら付け加え、茶化してみせはしたが、彼女らとともに佐々木が積み重ねてきた日々の重みと信頼関係が窺えた気がした。
なでしこが世界の頂点に立った。それも、アメリカを相手に、2度のリードを許しながら、延長まで持ち込みPK戦で下すという、離れ業の末にだ。
アメリカは、世界ランク1位であるだけでなく過去24戦して3分21敗という、日本からしてみれば絶望的な相手だ。'08年の北京五輪準決勝でも対戦し、明らかな力の違いを見せられ2-4でねじ伏せられた苦々しい記憶もある。今大会直前、5月のアメリカ遠征で行われた親善試合では2戦とも0-2で敗れている。
アメリカにしてみればお得意様、カモもいいところ。口でなんと言おうが、舞台が決勝であろうがなかろうが、必ず降さねばならない相手でもあったはずだ。
アメリカの圧力に、なでしこのサッカーができず苦しんだ前半。
決勝の立ち上がり、そんな雰囲気がありありとしていた。アメリカは早い時間帯に勝負をかけてきた。高い位置からプレッシャーをかけて日本ボールを奪い、猛攻を仕掛けてくる。なでしこと違い、強いパスを持つ彼女たちはボランチから一気にゴール前に長いボールを入れて来たり、1本のパスでサイドチェンジをはかる。かと思えばしっかりとつないで崩しにかかってくる。攻守に多彩で、明らかに地力で勝っていた。
受けに回ったなでしこは対応に苦しんだ。ボールを持っても、相手に寄せられると前線に長いボールを蹴りだしてしまう。相手の圧力に押され半ばやみくもに蹴っていたのでは、フォワードにボールも収まらず、相手ボールになって劣勢を招くだけでなく、パスをつないでいく日本の良さがでない。
なでしこのサッカーとは、小柄で、キック力も明らかに劣る上に、単純なスピード勝負でもおそらくアメリカを始めとする強豪国の選手たちには勝つことができないという認識が前提にあるサッカーだ。ではどうするか?
労力をおしまない。プレッシャーをかけ続け、中盤から丁寧につなぎ、人数をかけてゴールに迫るサッカーだ。相手よりも走り、相手よりもボールを動かすことで、個人個人の能力の差を埋める。埋めるだけでなく、綿密な分析の上に成り立つ戦術と、それを理解する選手たちの知性、そして成熟と信頼関係をあわせて必要とする、というサッカーだ。
<次ページへ続く>
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