レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

ルシェンブルゴの「魔方陣」の謎。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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posted2005/09/14 00:00

ルシェンブルゴの「魔方陣」の謎。<Number Web> photograph by AFLO

 すべてはこの発言から始まった。

 「菱形が変形した魔方陣、ここから魔法の角度が生まれる」、「サイド攻撃?サイドから攻撃なんかするもんか。忘れてくれ」(いずれもAS紙9月7日付けより)

 ルシェンブルゴは役者である。

 世界に先駆けスペインで公開された『レアル・ザ・ムービー』での演技はなかなかのものだ。サッキやブトラゲーニョは大根(失礼!俳優じゃないのだから当然だ)だが、ルシェンブルゴはきわめて自然に自分自身を演じている。エキセントリックで多弁で、何につけて見出しになる話題を提供してくれるので、メディア関係者には大人気。誠実、慎重なゆえに寡黙で、談話がつまらないライカールトとは対照的だ。

 ラウールにイヤホンを付けてプレーさせた“ピンガニージョ事件”(「つらら」、「雨どい」の意。耳にぶら下げるからだろう)など、その際たるものである。危険防止でピアスすら禁じるFIFAが、「大声を出さず、的確に指示を伝えるため」などという身勝手な理由で無線付きイヤホンを認めるはずはないと思うが、「いずれ認可されるはずだ」と自信満々である。

 で、その役者が今度は「魔方陣」ときた。キャッチーな名前まで付いてそのまま記事のタイトルにも使える。いつもながらサービス精神満点だ。味気ない戦術論もルシェンブルゴの手にかかれば一味違う。その中身はこうだ。

 この連載でも何度か紹介したように、レアル・マドリーのシステムは4−1−3−2である。1ボランチと左右のサイド、トップ下がダイヤモンド型に並ぶ。冒頭の「菱形」とはこのダイヤモンド型を指す。が、このシステムはあくまで守備用。攻撃用のバージョンが例の魔方陣なのだ、という。

 ルシェンブルゴの言うように菱形を変形させてみよう。2トップと4バックに手を触れずに、右か左に回転しながらつぶす、と、ある瞬間、菱形が正方形になる。システム図にすると4−2−2−2。2トップを含めて上下に正方形が2つくっつく形になる。これがルシェンブルゴのいう魔方陣である。

 では、「魔法の角度」とは何かというと、正方形の対角線を結ぶと4つの直角二等辺三角形ができる(わからない人は実際に紙に描いてみてください)。この三角形の頂点が選手、線がパスのコース。三角形はサッカーのパス回しの基本である、トライアングルでのパス回しを図化したものだ。1つの正方形に4つの三角形、つまり4つのトライアングルパスの可能性を示している。魔方陣全体では正方形は上下に2つだから、計8つのトライアングルパスのパターンがある。この直角二等辺三角形の内角45度、45度、90度に位置する味方へのパスアングルが、ルシェンブルゴに言わせると「魔法の角度」となる。

 なぜ、魔法なのか?

 彼の説明によれば、トライアングルパスをやりやすい適正な距離と角度に3人の選手が配置されているからだ、という。

 本来、トライアングルパスの理想的な形とは、正三角形である。囲い込んだ敵から誰もが均等に遠く、パスの長さも等しいからである。これはグラウンドで、3人で三角形をつくり、その中に1人(パスカット、インターセプト役の敵)を置いて、ぐるぐるパスを回してみるとすぐ合点がいく。一辺や二辺が極端に短かったり、長かったりする変形した三角形だと、敵との距離が近い味方ができたり、パスが間延びしたりして、インターセプトの危険性が高くなる。

 ルシェンブルゴの直角二等辺三角形は、この正三角形には劣るが、トライアングルパスでの選手の配置としては悪くない。

 以上、私の解釈だが、どうも釈然としない。

 大体、トライアングルパスのパターンなど、わざわざシステムにして規格化するほどのものだろうか。4−1−3−2であれ、4−2−2−2であれ、システムは最低限の約束事に過ぎない。選手の配置や動き方は、ボールの位置や試合の流れによって自由に変化してかまわない。トライアングルパスだって訓練された選手たちであれば、状況に応じて最適な三角形を作れるはずだ。ルシェンブルゴの言うことを理解はできるが、どこがマジックで何が魔法なのか納得がいかないのだ。

 もしかすると、この煙に巻かれたような気持ちの方が魔法の効果なのかもしれないが……。

 さて、この魔方陣のカラクリよりも、2番目の発言、サイド攻撃の放棄の方が議論のタネになっている。何しろ、ロケットのようにサイドを駆け上がるロベルト・カルロスの姿がレアル・マドリーの代名詞である。それを捨てるとは何ごとかと、ファンもメディアも色めきたった。

 魔方陣4−2−2−2を図にすると、左右に大きなスペースが空いている。ここを両サイドバックの攻撃参加に使うのかと思っていたら、「サイドから攻撃なんかするもんか。忘れてくれ」である。

 4−2−2−2でも4−1−3−2でも、私はロベルト・カルロスとミッチェルの攻撃参加は少なくなると予想していた。彼らが攻め上がらなくとも、2トップと両ウイングの間でオーバーラップができるからだ。攻守バランス的にもサイドバックが抜け3バックになって、攻撃者と守備者の比率が7人対3人(キーパーを除く)になるのは前がかり過ぎる。

 とはいえ、ルシェンブルゴも両サイドバックの攻撃参加をすべて禁じているわけではない。

 くだんのインタビューでも「(4−1−3−2は)サイドバックが中盤に上がれば3−4−3になる。これが1つの攻めの形だ」と語っている。サイド攻撃放棄の言わんとするところは、どうやら、コーナーをえぐってセンタリングを上げる役割をサイドバックに求めない、ということらしい。

 実際に試合でチェックしてみた。先週10日の対セルタ戦である。

 目を凝らしても魔方陣も魔法の角度も見えなかったが、センターラインにロナウド、ロビーニョ、グティ、ベッカム、グラベセン、バプティスタが窮屈そうに詰め込まれてあるのはわかった。確かに、ロベルト・カルロス、ミッチェルがコーナーフラッグ付近にまで走り込み、センタリングを上げるシーンは少なかったが、むろん皆無ではなかった。指揮官の言葉とは裏腹に、ロビーニョはサイド攻撃を忘れず、しばしばライン際に流れてチャンスを作っていた。

 試合後はやっぱり釈然としなかった。

 そもそもサイド攻撃を禁じるメリットは何なのか。“サイドに固執しない。両サイドバックには守りを重視させる”ならわかる。「サイドから攻撃なんかするもんか。」では自ら攻撃の幅をせばめるだけだ。

 要は、大袈裟、極論なのだ。魔方陣と魔法の角度も同じ。

 大騒動になることを見込んで挑発しているのだろう。戦略や戦術にさかんに口をはさむマスコミに、自分のプライドや権威を再認識させたいだけなのかもしれない。「監督は俺だ」と胸を張っているわけだ。

 ところで、ご存知のとおりレアル・マドリーはセルタに2対3で敗れた。決勝点はゴールラインを割っておらず幻のゴールだったが、内容では引き分けが精一杯というところだった。

 ロビーニョはファンタスティックで、ワンタッチプレーでもドリブルでもよし。バプティスタは初ゴールをあげたが期待を裏切り続けている。鳴り物入りのセルヒオ・ラモスのデビューは地味なものだった。

 これでカディス、セルタといった2部からの昇格組に1勝1敗。4失点の守備に疑問符が付けられている。またもや露呈したセットプレーでの集中力の欠如、高さへの弱さ──チームの周囲は再び騒がしくなってきた。レアル・マドリーに話題づくりはいらない。1つか2つ苦戦すれば十分なのだ。

 今夜(13日)のオリンピック・リヨン戦で敗れでもすれば、大論争は必至。そうなれば、今度は我われをどう煙に巻くのか。ルシェンブルゴのお手並み拝見だ。

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