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NBA Final 〜ピストンズが見せつけた、優勝に必要なこと。 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byNBAE/gettyimages/AFLO

posted2004/06/22 00:00

 「No! No!」

 NBAファイナル第5戦の終盤、ピストンズのHCラリー・ブラウンは、腕を振り回し、声を張り上げた。接戦を思わせる必死の形相だが、実際は、この時点で彼のチームは24点差でリードしていた。対戦相手のレイカーズが戦意を失っていたことを考えても、勝利はほぼ間違いなかったはずだ。それでもなお、ブラウンはひとつひとつのプレーや判定にこだわり、指示を出し続けたのだ。今季のピストンズの強さは、このひたむきな姿に集約されていると言っていいだろう。

 ファイナルが始まる前、大方の予想は「レイカーズ有利」だった。才能、経験、経歴の3拍子そろった選手が4人もいるレイカーズに対し、ピストンズにはエリートプレイヤーがいない。ガードのチャンシー・ビラップスはいくつものチームを渡り歩いた苦労人。フォワードのテイショーン・プリンスはドラフト23位指名の選手であるし、センターのベン・ウォーレスはドラフトすらされなかった。フォワードのラシード・ウォーレスは素行不良の問題児として今季ブレイザーズを厄介払いされている。ラリー・ブラウンにしても、基本プレーを教え込む手腕に定評はあるものの、9つの優勝リングを持つフィル・ジャクソンの前ではかすんでみえてしまう。

 ところが、ふたを開けてみると、ピストンズは圧倒的に強かった。彼らは、身体を張ったフィジカルなディフェンスでレイカーズを完ぺきに封じこめた。特に、エースのコービー・ブライアントに対するディフェンスはすさまじく、彼がゴールに切り込むたびに3人がかりで潰しにかかった。行き場を失ったコービーは無理なシュートを連発。FG率は38・1パーセント、3P率に至っては17・4%というひどい成績に終わった。シャキール・オニールが平均26・6ポイントと奮闘したものの、レイカーズはオフェンスのリズムを完全に崩され、平均81・8点に抑えられてしまった。これは、ショットクロックが導入されて以来、ファイナル史上3番目のロースコアである。

 だが、レイカーズもピストンズのディフェンスの良さはある程度予想していたはずだ。予想外だったことがあるとすれば、それはオフェンスリバウンドの数である。ピストンズは5試合で72個のオフェンスリバウンドを奪い、この分野でレイカーズを20も上回った。そのおかげで新たな攻撃のチャンスが生まれ、接触プレーからのフリースローや、ゴール下でのイージーショットが増えた。ピストンズはシュートのうまいチームではないので、リバウンドからの得点は数字以上に貴重だった。

 では、ピストンズはなぜオフェンスリバウンドを支配できたのか? ベン・ウォーレスの存在感やカール・マローンのケガなど理由は様々だが、最終的にはチームのまとまりの差が大きい。チーム内で意思の疎通が計れていれば、リバウンドに行くタイミングもはかりやすい。チームワークに優れたピストンズはリバウンドの反応が常に一瞬早かった。しかもガードからセンターまで、全員で懸命にボールを追う。差が出るのも当然だった。

 終わってみれば、4勝1敗。ピストンズは14年ぶり、3度目の優勝を果たし、12人の選手のうち11人がはじめての栄冠を味わった。ラリー・ブラウンもNBAコーチ歴21シーズン目にして初優勝。NCAAとNBAの両方で王座を獲得した史上初のヘッドコーチとなった。ファイナルMVPには、平均21点、5・2アシストの成績を残したビラップスが選ばれたが、解説のドグ・リバースが述べたように、「チーム全員がMVP」だった。

 一丸となり、地味な基本プレーを泥臭くがんばることで、ピストンズはスター軍団から勝利をもぎ取った。優勝に必要なものは才能でも経歴でもないことを、彼らは見事に証明してみせたのである。

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