MLB Column from USABACK NUMBER

フアン・ユリベの風船ガム 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/06/03 00:00

フアン・ユリベの風船ガム<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 5月22日のホワイトソックス=カブス戦で、ホワイトソックス遊撃手、フアン・ユリベが演じた「プレー」が、いま、MLBファンの間で議論の的となっている。

 厳密にいうと、ユリベの「プレー」は、プレーはプレーでも野球のプレーではなく、「芝居(play)」と呼ぶのがふさわしいプレーだったが、問題の芝居が演じられたのは、0対0で迎えた1回裏、2死1塁に走者デレク・リーを置き、4番打者、ジョロミー・バーニッツとヒット・エンド・ランを敢行した場面だった。バーニッツの痛烈な打球が1塁線を破り、ファウル・グラウンドへと転がった時点で、誰もが「ヒット・エンド・ラン成功、カブスが先取点」と確信したのだが、あろうことか、走者のリーが、2塁を回った途端に走るのを止めてしまったのだった。

 走るのを止めたのは、遊撃手のユリベが「ファウルボール、ファウルボール」と叫んだのを真に受けたからだったが、「ユリベにだまされた」とわかってすぐに走り出したものの後の祭り、リーは3塁で止まらざるを得なかった。結局、次打者アラミス・ラミレスが凡退、カブスは、先取点の機会を逸したのだった。

 リーが簡単にだまされたのも、ユリベの芝居に信憑性があったからだが、ユリベは、「ファウルだからインプレーじゃないよ」という「のんびりさ」を演出するために、チンタラと2塁ベースに走っただけでなく、リーの顔を見ながら、噛んでいた風船ガムをプクーッと膨らませてみせたのだった。

 結局、試合は、カブスが4対3で勝ったものの、試合後、だまされたリーも、監督のダスティー・ベイカーも、「卑劣な手を使う」と、ユリベの「芝居」を非難した。カブス・ファンのほとんども、「スポーツマンシップに反する」と、ベイカーの意見に同調したが、ホワイトソックス・ファンは、「ユリベはゲームズマンシップを発揮しただけ。敵チームの野手を味方チームの3塁コーチと同じに信じる方が悪い」と、ユリベを擁護した。

 以前に週刊文春のコラムでも書いたが、「ゲームズマンシップ」とは、「ルールを破らない範囲で、勝つために何でもすること」を言う。野球における「ゲームズマンシップ」の例は、たとえば、

* 2塁走者によるサイン盗み

* 送球が逸れているのにする空タッチ

* 送りバントと見せかけての強攻

* 打者をのけ反らせる「ブラッシュバック」

等々、枚挙にいとまがない。

 一般に、「ゲームズマンシップ」は、語義からして「許容範囲内」と認定されることが多いが、問題は、やりすぎると「チーティング(インチキ・不正)」になってしまうことである。しかも、往々にして「ゲームズマンシップ」と「チーティング」の境界線は不分明であり、今回のユリベの芝居にしても、「ゲームズマンシップとして許容範囲内にあるかどうか」ということが問題になったのである。

 しかし、同じ「進塁の阻止」でも、「審判が見ていない機会をとらえて、走者のユニフォームをつかんだり、足を出して躓かせたりする」(ジョン・マグローやタイ・コブの時代には当たり前のプレーだったという)のは明らかに「チーティング」だが、「風船ガムを膨らませる」のは、絶対に「チーティング」ではない、というのが私の意見である。

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