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ファン・バステンの本音。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byAFLO

posted2004/12/24 00:00

ファン・バステンの本音。<Number Web> photograph by AFLO

 「2年後に、このカップと再会したいね」

 マルコ・ファン・バステンは、W杯の優勝トロフィーをさすりながらニヤリと笑った。

 12月上旬、ドイツのハンブルクでW杯のカウントダウン・パーティーが催された。そのメインゲストに選ばれたのが、オランダ代表監督のファン・バステンだった。

 彼が他のドイツ人を差し置いて、招かれたのには理由がある。ファン・バステンは1988年にドイツで開催されたユーロで、準決勝でドイツ相手に決勝ゴールを叩き込み、そして決勝のロシア戦では奇跡的なノートラップ・ボレーシュートを決めている。ドイツの人にとって、ファン・バステンはドイツから優勝をかっさらった、忘れることのできないプレイヤーなのだ。

 普段オランダでは、厳しい取材規制がひかれているファン・バステンだが、この日ばかりはオランダ人記者がいないので、自由に話しかけることができる。こんなチャンスは滅多にない。立食パーティーで雑談しているときに、ファン・バステンに直撃した。

―――W杯予戦でオランダは首位に立っていますが?

 「すでにオランダはW杯への玄関に立っていると言える。ほとんどのオランダ人が、もう突破できる手ごたえを得ているんじゃないかな。でも、道のりはまだ長いから、油断してはいけない」

―――MFファンデルファールトやDFハイティンガといったアヤックス勢が、クラブで不振ですが、それは問題になる?

 「彼らはまだ若いから、波があるのは仕方がないだろう。でも、それが代表に影響することはないね」

―――なぜでしょうか?

 「今、オランダは若手をテストしているところなんだ。色んなバリエーションを試して、ベストな答えを探している段階なので、調子が悪い選手はそのときは外せばいいからね」

 オランダはW杯予戦でチェコ、フィンランド、ルーマニアと同組になり、決して楽なグループではない。それなのにファン・バステンは突破を目指すと同時に、若手の発掘を続けているというのだ。たいして厳しい予選がない極東の国のブラジル人監督が、いっこうに若手をテストしないのとはあまりにも大きな差である。あくまでファン・バステンは本大会で完成形になることを目指している。優勝を目指すオランダと、さしたる目標もない日本には、W杯予戦の戦い方ひとつを取っても深い溝が横たわっている。

 短い会話を終えたあと、オランダ代表コーチのジョン・ファント・シッフと雑談することになった。彼とはナンバー本誌「カズへの手紙」で取材して以来、顔なじみになっている(ファント・シッフは、ジェノバでプレイしていた)。ファン・バステンにサインを求める人が殺到するのを横目に、ファント・シッフがそっと教えてくれた。

 「それでも代表監督というのは、やっぱり簡単ではないよ。アヤックスの2軍で私とマルコがやっていたときに比べたら、うまくいかないことは多いからね」

 オランダ代表が2大会連続でW杯の出場を逃すことは絶対に許されないし、そして本大会に出られたとしても、ベスト4以上にならなければオランダのファンは納得しないだろう。ファン・バステンは、誰もが拒んだ火中のクリを拾った。オランダのカリスマは、思い出の地のドイツで、再び自らのプライドを賭ける。

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