レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

カマーチョ電撃辞任の真相。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byJun Tsukida/AFLO SPORT

posted2004/09/29 00:00

カマーチョ電撃辞任の真相。<Number Web> photograph by Jun Tsukida/AFLO SPORT

 「もう我慢できない。チームに支持されていないなら、辞めるだけだ」――。

 ホセ・アントニオ・カマーチョ監督が、就任から4ヶ月、リーグ戦をわずか3試合戦っただけで突如辞任した。9月15日のチャンピオンズリーグ、レバクーゼン戦(0−3で惨敗)、18日のスペインリーグ、エスパニョール戦(0−1。内容的には完敗)に連敗したが、監督の座を放り出した理由は、敗戦ではあり得ない。主力選手たちとソリが合わず、ベンチで孤立したからだ。

 実はカマーチョには、突然の辞任劇の“前科”がある。

 1998年7月9日、前会長のロレンソ・サンスと対立したカマーチョは電撃辞任。わずか23日間でレアル・マドリーの監督の座を降りている。韓日ワールドカップ後の2002年7月2日には、連盟そしてファンの留任要請を蹴り、さっさと代表監督を辞任したこともあった。カマーチョは年齢こそ50歳の手前だが、主義・主張を曲げない昔気質の熱血漢で、あちこちで衝突してきた。名誉や権威よりも筋を通すことを重んじて、融通が利かない反面、その親分肌を慕う選手も少なくない。

 だが、今回は衝突した相手が悪かった。何しろあの“銀河系の戦士”たちだ。

 私は、監督には大別して“鬼”と“仏”の2つのタイプがあると思う。

 “鬼”とは、『規律重視、フィジカルトレーニング重視、非情な采配、厳格な戦略・戦術……』等を特徴とする監督たち、“仏”とは、『自主性尊重、ゲーム形式の楽しい練習、温情采配、個人技重視……』等を特徴とする監督たちだ。日本代表で言えば、トルシエは“鬼”でジーコは“仏”だ。

 好々爺のようなビセンテ・デル・ボスケ、無口なダンディー、カルロス・ケイロスと“仏”タイプが続いたレアル・マドリーにとって、カマーチョは久々の“鬼”タイプの監督だった。

 私は、今季のレアル・マドリーには“鬼”が必要だと思っていた。それは昨季の終盤に、プロ意識の欠けた無気力な試合ぶりを見せられていたからだ。

 ただのスターの寄せ集め、エゴの塊に過ぎないレベルまで落ち込んだチームを、戦う集団として再生するには、モラルの向上、フィジカルコンディションのアップ、戦略・戦術の徹底が不可欠であり、それには鉄拳も辞さない男が必要だった。

 フロレンティーノ会長もそう考えカマーチョを選んだはずだ。その意を汲んだ彼は、早速、意識改造に取り組んだ。

 朝と夕方の2回の練習(昨季までは夕方だけ)、ホームゲーム前日の合宿(昨季までは試合当日の現地集合)など、体をいじめ抜く回数は増え、規律は強化され、プライベートな時間は削られた。

 しかし、これが“銀河系の戦士”たちの反感を買うことになる。

 不協和音の兆しは、レバクーゼン戦に大敗した後のカマーチョとロベルト・カルロスの“温度差”からうかがえた。打ちひしがれ絶望するカマーチョに対し、ロベルト・カルロスはあくまで冷静だった。

 カマーチョ:「選手をやる気にさせなかった私の責任」⇔ロベルト・カルロス:「負けるつもりで試合をする選手はいない」。カマーチョ:「相手の方がよく走っていた」⇔ロベルト・カルロス:「我われは走り過ぎる。それが問題だ」。カマーチョ:「我われには謙虚さが足りないのかもしれない」⇔ロベルト・カルロス:「そういうことはプライベートで話してほしい」。カマーチョがハーフタームに激怒したという噂には、「机を叩くと手が痛いし机が壊れる。何が悪かったのかは、大人だからわかっている」と軽く受け流している。

 まるで漫才である。いや、昨日までは誰もがユーモアと受け止めていたのだ。

 ロベルト・カルロスだけではない。

 レバクーゼン戦で途中交代されたジダン、フィーゴ、ロナウドはベンチに残らずロッカールームに消え、ジダンとロナウドは試合が終わってもないのにさっさと着替えてバスに乗り込んでしまった。

 ベンチで仲間を応援する、あるいは、大敗の責任を噛み締める、という意識はなかったのだろう。「チームワーク」などという言葉は存在せず、カマーチョ采配への不満だけが明らかになってしまった。カマーチョは後に、「ロッカールームが狭かったからだ」とロナウドとジダンをかばったが、今となってはそれも苦しい言い訳にしか聞こえない。

 カマーチョは歯に衣を着せぬ男だ。

「銀河系も糞もあるか! もっと動け!」――。記者会見での舌鋒も鋭かったが、ロッカールームでは選手たちを何度も怒鳴りつけたという。“銀河系の戦士”たちのプライドも傷ついたに違いない。

 しかし、客観的に言って、レバクーゼン戦、エスパニョール戦でのレアル・マドリーの試合ぶりは酷評に値した。

「走れ!」「動け!」「やる気を見せろ!」と、私が監督でも怒鳴り散らすだろう。首位から4位までずるずると転落した、あの昨季の終盤のコピーのような戦いぶり。否、状況は悪化している。今回は「長いシーズンの疲れが出た」との言い訳が通用しないのだから。明らかにモチベーションの欠如であり、心の問題である。

 ロベルト・カルロスは、カマーチョが辞意を明らかにした後、「責任は我われ選手にある」「練習のやり方も話し方も違う。彼を理解し寛容になるべきだ」と、遅まきながら振り返っている。

 カマーチョと選手の不協和音をフロントも見て見ぬフリをした。内情に通じる立場にあったのだから、知らなかったでは済まない。

 ロナウドとジダンに罰金を課すとか、ロベルト・カルロスを注意するとか、昨季までであればスポーツディレクターのホルへ・バルダーノが介入し、カマーチョを擁護する何らかの策を取っていたはずだ。沈黙を守り続ける後任のエミリオ・ブトラゲーニョを見て、カマーチョが孤立を深めたことは想像に難くない。

 もともとカマーチョはフロントに不信感を抱いていた。

 その発端は、ビエイラ獲得を要求したのにオーウェンを獲ってきたことだった。「なぜ獲ったのか?」という問いに、カマーチョは「私は頼んでいない!」と憤然としていたものだ。結局、守備的ミッドフィルダーの獲得というカマーチョの願いはかなわず、オーウェンの加入により、あぶれるフォワード陣のやりくり、という難題が加わっただけに終わった。

 こう振り返ってみて、私はカマーチョに同情するが、辞任には大賛成だ。

 選手を総とっかえする訳にはいかない。今のレアル・マドリーができることは唯一、監督交代でしかないからだ。

 カマーチョの後任には助監督だったガルシア・レモンが就いた。彼は私の住むサラマンカで監督経験がある。口髭がデル・ボスケを連想させるが、その指揮ぶりも柔和な性格もよく似ている。

 “鬼”が去り、“仏”がやって来た。“銀河系の戦士”に、もう言い訳の余地は残っていない。

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