年中真夏日の男

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text by Itsuki Marui

photograph by Tadahiko Shimazaki

年中真夏日の男

 熱い。暑苦しい。記録的だった今夏の事ではない。夏が過ぎ去った今でも、年がら年中燃えている男がいる。ZERO−ONEの若大将・大谷晋二郎。アテネ五輪の女子レスリングで咆哮したアニマル浜口一家に負けず劣らず、大谷家は熱血家族愛に溢れている。

  まず、大谷本人が熱い。山口県山口市に生を享け、病弱だったにも関わらず、新日本の県内大会には毎回応援に出掛けた。頭に鉢巻き、足にレガース、手にはノボリを握り締め、勇壮な姿で大声援。入門前から名物少年だった。高校時代はアマレスで全国大会に出場し、新日本へ入門するとジュニア7冠王に輝いた。ヘビー級転向を経て、橋本真也が旗揚げしたZERO-ONEに合流。「熱いヤツ、集まれ」と呼びかけて選抜リーグ戦「火祭り」を立ち上げた。

  選ばれたプロレスラーだけが見ることができる「プロレスの教科書」を持っているという。試合後の条文朗読が恒例となり、最近ではファンと唱和する”大谷集会”が自然発生した。8ページに「日本一になりたければ日本一高い山に登れ」とあれば、本当に登った。52歳になった長州力と対戦する時は110ページ「腐っても長州力」と引用。橋本真也が右肩手術で戦線離脱した際は「これからのZERO-ONEはオレがいれば大丈夫」と17ページを公開した。

  熱血魂は、父によるところが大きい。父・裕明さんは山口市内で30年間、英語塾「中央セミナー」を開いている。その授業が熱い。宿題を忘れると段階別の罰が待っている。一度目は反省部屋として押入れの下段へ入らなければならない。二度目は押入れ上段、三度目はさらに倍、天井裏へ。いずれも授業は受けねばならず、天井裏でも曲者のように隙間から教室を覗くことになる。大谷も曲者になった。

  その塾には息子のポスター、ビデオ、新聞、雑誌の切り抜きが所狭しと陳列されている。県内の大会は必ず観戦し、東京の会場にも度々足を運ぶ。今年は火祭りの東京2大会を観戦。右肩を負傷した田中将斗がドクターストップを押し切り、社長である橋本にリング上で強行出場を直訴した場面に遭遇した。

 「やらして下さい」

 「ダメだ」

 「試合に出して下さい」

 「我慢しろ、我慢。自重しろ」

  大声で諭したのは橋本ではない。客席の裕明さんだ。息子と敵対している相手なのに。二代にわたる熱血魂はプロレス界では有名で、”チチジロー”のニックネームまで襲名している。大谷が新日本時代にIWGPジュニア選手権で優勝した瞬間、中継のテレビカメラが映したのはガッツポーズではなく、大喜びのチチジローだった。

  熱血父子を優しく見守っていた母・恵子さんは、昨年6月に交通事故で急逝した。巡業中に知らせを受けた大谷は山口県ではなく、福島県へ向かった。お客さんを沸かせ、時には笑顔も見せて白星を挙げた。花道を引き揚げた後、報道陣へ教科書を読み上げた。いや、涙も鼻水もごちゃ混ぜに叫んでいた。

  「100ページだ。記念すべき100ページ目だ。プロレスラーが暗い顔をして誰がプロレスを好きになんだよ。プロレスラーにプライベートは無え。めちゃくちゃ辛れえけど、辛くなんかねえよ。おお、やりがい出て来た。必ずプロレス界の頂点を獲ってやる」。

  今すぐにでも実家へ帰りたかった。しかし、大谷はプロレスラーだった。あんなに強がる、悲しい涙を私は知らない。

  実家には現在、裕明さんが独りで暮らしている。今月上旬に中国地方が大型台風に襲われ、心配になった大谷が携帯電話に連絡した。強風で駐車場の屋根が飛ばされそうになって「今、柱を抱えているとこだ。もう3時間経ったかなあ」。3時間も柱に巻きつき、暴風雨の真っ只中で電話に出るチチジロー。シリーズを控えていた大谷は「早くケリをつけて、オヤジを助けに行かなくちゃ」と微笑んだ。助けに行かなければ、何日でも柱を支えているだろう。オヤジの息子に生まれて、本当に良かった。

筆者プロフィール

丸井乙生

1973年、青森市出身。太宰治、寺山修司の母校・青森高校時代はナンシー関の実家近くの英語塾に通い、中央大法学部へ。スポーツニッポン新聞東京本社で五輪担当、仙台支局を経てプロレス担当に。剣道三段。


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