MLB Column from USABACK NUMBER

新旧野球セオリーの対決。 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2004/05/04 00:00

新旧野球セオリーの対決。<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 4月30日、カブス対カージナルスの今シーズン第1戦をテレビ観戦した。この2チームのライバル関係の歴史は、ヤンキース対レッドソックスよりも古いだけでなく、「大リーグ最良のライバル」という言葉が示すように、ヤンキースとレッドソックスのファンが互いにむき出しの憎悪をぶつけ合うのとは対照的に、好敵手としてお互いの存在を認め合っている。たとえば、レッドソックスのファンでヤンキースのワールドシリーズ進出を願うファンなど一人もいないが、昨年、惜しくもワールドシリーズ進出を逃したカブスを応援したカージナルスのファンは多かったのである。

 伝統のライバルの名に恥じず、今年の第1戦も3対3で最終回を迎える好試合となったが、9回裏カージナルス攻撃の場面で、日本でもあまりお目にかかれないシーンが展開された。無死一塁で打席に立った4番ジム・エドモンズに、ラ・ルーサ監督がバントを命じたのである(結果はファール)。それだけでなく、エドモンズが四球を選んで無死一・二塁となると、今度は、現時点でナ・リーグ打点王の5番スコット・ローレンにもバントを命じたのだった(最終的にローレンの送りバントが効いて、カージナルスはサヨナラ押し出しで勝利をもぎとった)。

 4番・5番に連続で送りバントを命じたラ・ルーサの采配は、現在、大リーグでもっとも注目を集めている新思考派の理論に真っ向から対立するものである。新思考派の理論は日本でも翻訳が出版されたベストセラー『マネーボール』に詳述されているが、「敵にアウトを進呈しない」ことがその思想の根幹となっている。たとえば、新思考派が、打者の資質として「打率」よりも「出塁率」を重視するのも、「出塁率=アウトにならない率」と考えるからである。というわけで、新思考派にとっては、敵にわざわざアウトをプレゼントする犠牲バントは、もっとも「馬鹿げた」戦術となるのである。

 一方、守旧派は、同じアウトでも、走者を進塁させる「生産的アウト」があると考える。ここぞというときに、意図的に「生産的アウト」を決めることが勝利の決め手になると考えるからこそ、4番・5番にも送りバントを命じるのである。

 現在のMLBで新思考派を代表するチームはアスレチクスとレッドソックスであるが、この2チームの思想は数字にも明瞭に現れている。全アウトに占める「生産的アウト」の割合は、アスレチクス1割3分7厘、レッドソックス2割ちょうどと、この2チームが大リーグ30チームの最下位を争っているのである(ちなみに1位はタイガースの4割3分0厘)。

 130年近くに及ぶMLBの歴史の中で、これまで、守旧派の理論は、「セオリー」として誰からも疑われることはなかった。伝統のライバル同士の闘いも面白いが、今シーズンのMLBは、新思考派と守旧派のどちらの理論が勝利をものにするかという、歴史的闘いも繰り広げられているのである。

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