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ボンズを取り巻く“薬物問題” 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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posted2007/01/23 00:00

ボンズを取り巻く“薬物問題”<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 年明け早々、バリー・ボンズ選手の薬物騒動が再燃している。1月11日付のニューヨーク・デイリーニュース紙が、ボンズ選手が昨年禁止薬のアンフェタミンの検査で陽性反応が出ていたとスクープ報道したためだ。

 ただ今回のアンフェタミンに関しては、これまでボンズ選手の使用疑惑が取り沙汰されているステロイドとはまったく異なるものだ。ステロイドは筋肉増強剤として選手のパフォーマンスや能力に直接影響を与えるもので、昨年から厳しい出場停止処分(いわゆる3ストライク・ルール)が科せられるようになったが、アンフェタミンは長いシーズンを戦う選手たちの疲労感を軽減する効果がある一種の興奮剤として長年に渡り多くの選手たちが使用を続けていた。昨年から禁止薬物に指定されたものの、労使協定により1回目の違反に関してはチームや公に公表される必要はないが、選手に対し個人指導が行われると同時に向こう6ヶ月間さらなる薬物検査が課せられる。今回のボンズ選手はその1回目であり、本来なら公表されるべきでなかったものが、情報リークというかたちでスクープされたわけだ。

 ただここで誤解してはいけないのが、ボンズ選手のアンフェタミン使用(報道後ボンズ選手本人は、アンフェタミンを譲り受けたと報じられたマーク・スィーニー選手の関与を否定したものの、アンフェタミンの陽性反応が出ていたことについて肯定も否定もしていない)が、そのままステロイド使用につながるものではなく、まったく別物だということだ。スクープ後、昨年末に合意に達したものの契約合意に至っていないジャイアンツとの交渉に影響を及ぼすとの報道もあったが、最近のUSAトゥデー紙でジャイアンツのフロント陣の発言としてアンフェタミン違反を理由に交渉を打ち切ることは労使協定違反となると交渉への影響を否定する報道をしており、とりあえずボンズ選手が今季ジャイアンツでプレーするのはほぼ確実な状況だ。つまり今回のスクープが、ボンズ選手の選手生命を脅かすものではなかったわけだ。

 とはいえ、昨年から薬物使用疑惑の渦中にあるボンズ選手だけに、まったく別種だったとはいえ、一連の騒動がアメリカ一般の人々に対する薬物使用問題への嫌悪感をさらに増長させてしまったのは間違いない。昨年末にウィンターリーグの話題を取り上げた際に、関心事の1つとしてボンズ選手の去就を上げたが、全米中にボンズ選手の擁護者がわずかしか残らない状況下、昨年も最後まで声援を受け続けたサンフランシスコ残留以外に道はないと思っていた。しかし今回の一件を機に、ジャイアンツ・ファンの中でさえ“ボンズ選手離れ”の動きが出てくる可能性は十分あるだろう。ハンク・アーロンの通算本塁打記録に挑む今シーズン、まさに四面楚歌に追い込まれかねないのだ。

 前述したように、現在の世論はボンズ選手に限らず、メジャー球界の薬物使用疑惑に対する不信感、忌避感は極に達している。すでにご承知のことと思うが、今年の野球殿堂入りを決める投票で、今年初めて選考対象となったマーク・マグワイア氏が全体の23.5%(殿堂入りするには75%が必要)しか獲得できなかったが、それだけに留まらない。最近ではセントルイスのあるミズーリ州議会員が、マグワイア氏が1998年に70本塁打を打ったのを記念してセントルイス市内の一部ハイウェイを「マーク・マグワイア・ハイウェイ」と命名したことに異議を唱え、名称撤廃の法案を提出する騒ぎまで巻き起こっている。現在マグワイア氏をはじめ、薬物使用疑惑が報じられた多くの選手が引退し公から姿を消したため(どうやらサミー・ソーサ選手は復帰するようだが)、昨年あたりからボンズ選手が1人非難を背負い込む状況が続いているが、今年はその風当たりがこれまで以上に強くなるのは必至だ。

 今回ここでボンズ選手を非難するつもりもなければ、擁護したいわけでもない。ただ彼を取り巻く環境がここまで最悪になってしまった上で、ボンズ選手がどんな心境を抱きながらキャンプインするのか、やはり気になって仕方がないのだ。そして昨年同様、ハンク・アーロンの記録に近づくにつれ、本塁打を打てば打つほど非難が巻き起こる中、ボンズ選手が如何にして記録を更新し、どのようにシーズンを乗り切るのか。とりあえず彼の人間ドラマを見届けてみたい。

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