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マイナーリーグ投手は資産2800億円の「億万長者(ビリオネア)」 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2007/03/08 00:00

マイナーリーグ投手は資産2800億円の「億万長者(ビリオネア)」<Number Web> photograph by AP

 大リーグ史上最高額契約はA−ロッドの期間10年・総額2億5200万ドルの契約である。英語では「252ミリオン・ドル」であり、A−ロッドをもってしても、「ミリオン(100万)」の次の数詞「ビリオン(10億)」には届かず、百万長者(ミリオネア)ではあっても、億万長者(ビリオネア)と呼ばれる資格は有していない。

 A−ロッド等並み居るスター選手を差し置いて、メジャー史上最初の億万長者となったのが、ドジャース傘下のマイナーリーグ投手、マット・ホワイト(29 歳)だ。プロ入り9年目、これまでの経歴のほとんどをマイナーリーグで過ごしてきたが、メジャーでの戦績は、登板7試合、投球イニング9 2/3回、自責点18、防御率16.76と、ぱっとしない。ドジャースは所属チームとしては8番目という典型的な「渡り鳥選手(journeyman)」のホワイト、ある日突然、24億ドル(約2800億円)の資産家に変身したきっかけは、年老いた叔母の苦境を救うために一肌脱いだことにあった。

 介護施設に入所していた叔母が施設への支払いに困っていると知って、叔母がマサチューセッツ州ハンプシャー郡に所有していた50エーカー(約6000坪)の土地を5万ドルで購入したのは、3年前のことだった。介護の甲斐もなく叔母はやがて死亡、ホワイトは、叔母から買った土地に家を建てるべく土台作りを始めたが、岩盤に突き当たってしまった。そこで、いったい、どういう岩が家を建てる邪魔をしているのかと専門家に調べさせたところ、建築用石材として人気が高い雲母の岩盤であることが判明した。専門家によると埋蔵量の見積もりは2400万トン、現在、雲母価格は1トン当たり100ドルと言われているので、ホワイトは、一夜にして24億ドルの資産家へと変身したのだった。

 ホワイトは、いま、招待選手としてドジャースのキャンプに参加しているが、同チームのロッカールームでは、億万長者のホワイトを特別扱いすることがジョークとなって流行っている。たとえば、GMのネッド・コレッティでさえも「ホワイト様、何かおいり用のものはございませんでしょうか」と挨拶してからかうのだが、ホワイトは「雲母を掘り出して売らない限りお金は得られないのだから、掘り出すための機械や人件費にどれだけかかるかわからない現時点で、『億万長者』というのは早計」と、慎重だ。

 ホワイトにとっては、捕らぬ狸の皮算用の雲母よりも、「メジャー枠に入ることができるかどうかの方が重要」であるのだが、あいにく、今季のドジャースは、コレッティGMによる補強が成功、投手陣の層がとりわけ厚いという定評があるだけに、メジャー入りは難しいだろうと言われている。コレッティも言うように、ホワイトがメジャーで投げるためには「自分でチームを買うしかない」ようなのである。

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