NBAの扉を開けBACK NUMBER

激情のディフェンダー。 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byNBAE/gettyimages/AFLO

posted2004/05/25 00:00

 NBAのディフェンスは激しい。体格が良くパワフルな選手がそろっているうえに、国際ルールに比べてボール絡みの接触プレーが許されるため、バスケットボールとは思えないような肉弾戦がコートのいたるところで起きる。華のあるオフェンスに注目が集まりがちだが、格闘技のような迫力のあるディフェンスは、間違いなくNBAの魅力のひとつだ。

 特に今季の最優秀ディフェンス賞受賞者、インディアナ・ペイサーズのロン・アーテストのプレーは見ごたえがある。「トゥルー・ウォリアー」の異名を持ち、201cm、112kgの強靭な身体を誇る彼は、平面のディフェンスでは誰にも負けない。その闘志溢れるがむしゃらな守りを見ていると、オフェンスが逆に攻められている印象を受けるほどだ。各チームのエース級の選手とマッチアップすることが多いが、名だたるスター選手も彼からは思うように得点をあげられない。今季も、ナゲッツのカーメロ・アンソニーを2得点、ウルブズのラトレル・スプリーエルを無得点に抑え、エースキラーの存在感を示した。

 ディフェンスの激しさは彼の性格をよく表している。1999年にNBA入りして以来、アーテストはディフェンス力よりも乱暴な行動で有名だった。闘志がから回りして、危険なファールを連発し、何度も退場させられた。物を投げたり、テレビモニターやカメラを壊したり、ボールを蹴りとばしたり、プレースタイルそのままに過剰な熱さを振りまいていた。「キレル」ことが少なくなったのは、24歳になった今季からだ。それでも退場処分を2度受けているが、2年前の退場数が10だったことを考えるとずいぶん大人になったと言えるだろう。主力選手として信頼されるようになったアーテストは、最優秀ディフェンス賞に続いてオールNBA 3rdチームとオールディフェンシブ1stチームに選ばれ、初のオールスター戦出場も果たした。課題であったオフェンスも大幅に向上。平均18・3得点をあげ、攻守兼ね備えたスター選手へと成長を遂げつつある。

 今季に入って評価がうなぎのぼりのアーテストだが、乱暴者時代にも多くの人間から評価されていた。練習試合でマイケル・ジョーダンの肋骨を折ったこともあるが、そのジョーダンでさえ彼を気に入っていたほどだ。彼の勝利への執念、試合でも練習でも常に全力を尽くす姿勢は、最近の若手選手にはあまり見られない。だからこそ、ジョーダンのみならずバスケットボールを愛する者は、不器用にがむしゃらに身体を削るようにしてボールを追いかけるアーテストから目を離すことができないのである。

■もうひとつの扉

正当な評価。

スパーズのHCグレッグ・ポポビッチが、最優秀ディフェンス賞の選考に不満をもらした。受賞を伝えるプレスリリースには、アーテストはマッチアップした選手を1試合平均8・1点に抑えたとあるが、これはもともとペイサーズのHCリック・カーライルらが調べたもの。そのデータを元にカーライルはメディアに広報活動を行っていたのだ(同賞はメディア関係者による投票で選ばれる)。だが、広報活動なしでもアーテストの受賞は揺るがなかったに違いない。オールディフェンシブ1stチームの投票(こちらはコーチによる投票)においても最高の得票数を集めたからだ。プレイオフに入っても彼のディフェンスは冴え渡り、ヒートのPG、SG、SF、PFを次々に抑えてみせ、勝利に大きく貢献している。

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