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マラドーナの遺伝子を受け継ぐ者たち。 メッシ/テベス/アグエロ ~母国での評価は?~ 

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中谷綾子・アレキサンダー

中谷綾子・アレキサンダーAyako Alexandra Nakaya

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photograph byTsutomu Kishimoto

posted2009/09/26 08:00

マラドーナの遺伝子を受け継ぐ者たち。 メッシ/テベス/アグエロ ~母国での評価は?~<Number Web> photograph by Tsutomu Kishimoto

 アルゼンチン国民は、いまだ有望な新星が現れるたびに「マラドーナ2世」たることを望み、ときにその重圧が選手を押しつぶしてきた。
試練は、欧州に渡り経験と実績を積み重ねた3人の“後継者”にとっても例外ではない。出自も歩んだ道も違うが、同時期に並びたつ彼らは、母国でどのように見られているのか。

「アルゼンチンサッカーを野蛮だと言う人は、サッカーを見ないほうが良い。サッカーは、激しく点を奪い合う死闘。華麗な振る舞いや技術、ましてや顔や髪型を競う競技ではない」

 '02年W杯で、シメオネが残した言葉である。

 この言葉に象徴されるように、狂気とプライド、そして歴史的な背景さえピッチにもちこむのが、アルゼンチンサッカーだ。W杯では常に優勝候補と目されながら、'90年の準優勝を最後に、準決勝にも進んでいない。

 マラドーナの引退後、アルゼンチン国内では毎年のように新たな救世主誕生が期待され続けて来た。それは、長年の経済危機をも解決してくれるのでは、という迷信にも近い祈りでもある。これまで新星が登場する度に「マラドーナ2世」と呼ばれ、時として、その重圧が選手の成長を妨げてきた側面もある。元祖マラドーナ2世と呼ばれたディエゴ・ラトーレにはじまり、アリエル・オルテガ、フアン・ロマン・リケルメ、パブロ・アイマール、ハビエル・サビオラ……。そして現在、最も代表的な2世として、リオネル・メッシがアルゼンチンサッカーの頂点に君臨し、カルロス・テベス、セルヒオ・アグエロ(タイトル写真)が続く。

アルゼンチン国内ではメッシよりもテベスとアグエロ。

写真

カルロス・テベス
1984年2月5日、ブエノスアイレス生まれ。今季、マンチェスターUから約42億円で、マンチェスター・シティに移籍。173cm、74kg

 しかし、メッシの国際的な評価や知名度の一方で、アルゼンチン国内におけるテベスとアグエロの人気の高さには驚かされる。地元スポーツ紙“Olé(オレ)”は、メッシのバルセロナとテベスのマンチェスター・ユナイテッド対決となった5月のチャンピオンズリーグ決勝では、テベスを応援するアルゼンチンサポーターが圧倒的に多かったと報道している。また、現代表で最も愛されている選手として、国民の大半が“カルリートス・テベス(カルロスちゃん・テベス)”と、まるで身内を語る口調で断言するというのだ。

 テベス人気は、英雄マラドーナと同じく貧困地区出身という生い立ち、貧困と弱者の味方というイメージを持つ国民的人気クラブ、ボカ・ジュニアーズ出身という経歴が大きく影響している。さらにその容姿からはとても想像つかないほどの優しさと思いやりに溢れた人柄が人々を魅了する。

 テベスは、ブエノスアイレスの最も危険とされるスラム街、ビラ・フエルテ・アパチェの出身である。幼い頃から、危険と隣合わせの日々を送りながら、プロのサッカー選手を夢見た。フエルテ・アパチェには、少年サッカーチームのような、地元密接型のクラブは存在しなかった。テベスは、近所の路地で、格闘に近いアグレッシブなサッカーの日々を送った。コーチは、サッカー好きの子どもをかき集め、様々な場所へ連れ回し、練習試合をしたという。

貧困層を出自とするテベスにアルゼンチン・ドリームを見る。

「今思うと、コーチはサッカーを教えるだけでなく、僕らの非行を防ぐ役割も担っていたんだよね。フエルテ・アパチェを生き抜いた者にしか分からないことだけど、サッカーチームか、ギャンググループに入るかで人生が決まってしまう世界だった。ダリオ・カバニャスという、サッカーでも最高のコンビを組んでいた親友がいたんだけど、彼はギャングの道を選んだ。その翌年には命を落としたよ。ほんの一瞬、選択ひとつで人生すべてが変わってしまうんだ」

 その言葉通り、想像を絶する環境を生き抜いた少年は、夢のクラブ、ボカへたどり着いた。小柄な体格から繰り出す様々なゴールパターン、スピードやテクニックで、国内リーグ制覇だけでなく、'03年にはトヨタカップ優勝を果たす。また、アテネオリンピック優勝後の'05年に、ブラジルのコリンチャンスでも、ブラジル全国選手権優勝に大きく貢献し、3年連続南米年間最優秀選手賞に輝いた。アルゼンチンだけでなく、ブラジルにおいても、多くのサッカーファンから愛されたテベスは、欧州にわたってからも飛躍した。特に、マンUでは献身的なプレーで、'08年のCL優勝に大きく貢献した。

<次ページへ続く>

► 【次ページ】 仲間思いで兄貴分のテベスこそ皆から愛されている。

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