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ようやく水着問題が決着。日本競泳陣の可能性は? 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byTakao Fujita

posted2008/06/26 00:00

ようやく水着問題が決着。日本競泳陣の可能性は?<Number Web> photograph by Takao Fujita

 まさかこれほどの好記録が生まれるとは……。6月6日から8日まで行なわれた競泳ジャパンオープンの会場、東京・辰巳国際水泳場は連日異様な興奮に包まれた。

 大会での注目は、国内の大会で本格的に試用される英スピード社の「レーザー・レーサー」にあった。日本水泳連盟が日本代表の水着として契約する国内3社のものと比べて本当に速くなるのか。速いとしたらどれほどなのか。選手やコーチなどの現場サイドから五輪で着たいという要望が起こる中、大会での記録が水着問題の決着に影響を与えるとみられていた。

 結果は予想を大きく上回った。

 初日、'99年以来破られることのなかった千葉すずの自由形200mの日本記録を、上田春佳が1秒03も上回る新記録。2日目には入江陵介が、背泳ぎ200mで自身がもつ日本記録を1秒76短縮。これは今季世界最高記録でもある。

 きわめつけは最終日の最終レース、平泳ぎ200mの北島康介である。アテネ五輪時からのライバル、ブレンダン・ハンセンの世界記録を0秒99も縮めたのである。

 終わってみれば日本新記録17個のうちレーザー・レーサー着用時のは16個。今大会に向けて選手たちは調整してきたわけではない。北京五輪に向けてハードな泳ぎこみを行なっている最中での、ありえないといいたくなる大幅な記録更新であった。「着られるなら着たいです」(入江)、「契約上いけないけれど(着用して)間違いはなかったと思います」(松田丈志)、「スピードの水着が泳ぎやすいです」(種田恵)。選手たちが次々に待望論を口にするのも当然だった。そして10日、日本水泳連盟と三社は契約外のレーザー・レーサー着用を正式に認めた。

 それにしても、同時期にリリースされている他の水着より1秒も速くなる水着などこれまでにあったためしはない。革命的である。それだけに、競泳の歴史はレーザー・レーサー以前と以後で分断された感がする。単純に記録を比較できない、記録が更新されたからといって記録を保持していた選手よりも塗り替えた選手が速い、と素直にいえなくなった。まるで「道具が主役になった」かのようだ。

 そうした複雑な思いをいだく一方で、今回の結果によって実感させられたことがある。日本代表のポテンシャルだ。今シーズン開幕とともに起こった海外での世界記録ラッシュの中で、日本競泳は地盤沈下したかのようだった。だがイコールコンディションにあれば世界で十分戦えるのではないかと感じたのだ。

 上野広治日本代表監督もこう言う。

 「正直言って、我々の指導に問題があって世界に後れをとってしまったのではないかと不安に陥っていました。でも今回の結果にほっとしています。コーチにとっても自信をもつことのできた大会でした」

 6月29日から行なわれるアメリカの五輪代表選考会の結果によって世界の勢力図はまた変動するだろう。それでも、オーストラリアや欧州の主要国での選考会が終わっている今、北島康介、入江陵介、中西悠子が世界ランク1位にある。前回アテネ五輪の銅メダリスト、背泳ぎの中村礼子らも日本新記録を出した。

 ようやく水着問題の決着を見て、北京へ向けて明るい展望の開けた競泳日本代表。それが意味するのは、やはり選手が主役だということである。

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