#1072

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「神様なんていないって」「私、天邪鬼」東京五輪で涙の敗戦…柔道家・高市未来は「窮屈な生き方」を超えていく

2023/04/29
日本柔道がメダルラッシュに沸いたリオ、東京五輪で、表彰台に立てるだけの実力を持ちながら、まさかの結末に涙した。悩んだ末に現役続行を決断も、怪我で再び引退の危機に直面。幾度も苦境を乗り越え復活を遂げた彼女が胸の内を語った。(原題:[涙の敗戦から世界選手権へ]高市未来「やりきったと思える瞬間まで」Number1072号掲載)

「もう辞めたいと思うこともたくさんありました。でも、辞めなくてよかった」

 東京五輪での敗戦から1年3カ月ぶりとなった五輪後初の実戦。昨年10月の講道館杯全日本体重別選手権女子63kg級で優勝を果たした高市未来(当時は旧姓田代)は、感涙にむせんだ。続く12月のグランドスラム東京も制覇し、見事復活の狼煙を上げた。

 5月に開幕する世界選手権の代表に選ばれているが、パリ五輪までの現状は、「首の皮一枚でつながっている状態」。ただ、悲壮感はない。その表情は穏やかで気負いも感じられない。今、自然体で柔道と向き合うことができていると笑顔が弾ける。

「最近こう思うんです。私はなぜここまで柔道を続けられているのかって。試合に勝つことや結果を出すことに対して、もちろんやりがいもあるし、勝てば欲も出てきますが、怪我や迷い、葛藤などいろいろなことがあっても、こうして柔道と離ればなれになっていない今があることを考えると、本当に私は柔道が好きなんだなと」

 心の底からそう思えるようになったのは、2度の五輪の経験や幾度の怪我、引退危機を乗り越えて復活を遂げたからなのだろう。

「神様なんていないって思いましたね(笑)」

 初めてオリンピックに臨んだ2016年リオ大会は3位決定戦で敗れ、5位に終わった。メダルを手にする仲間たちを横目に、「帰りは同じ飛行機に乗りたくなかった。一緒にいることが恥ずかしくて」と自身の不甲斐なさを嘆いた。リベンジを誓って挑んだ2度目の大舞台では他の誰よりも懸ける思いは強かったものの、メダルどころか神様は再び彼女に試練を与えたのだった。

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photograph by Yasuyuki Kurose

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