#1009
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<巻頭インタビュー> 野茂英雄「僕がブレずに貫いてきたもの」

2020/08/20
25年前、メジャーリーグに挑んだ野茂英雄。アメリカを席捲した男の信念が今も人の心を打つ。
2020年8月某日、野茂英雄は灼熱の炎天下の中、静かに姿を現した。26歳の剛腕が、トルネードを武器にメジャーデビューを果たし、アメリカを席捲してから四半世紀が経つ。51歳の彼はあの頃の自分に何を見るのか。ただひたすらに腕を振ることで時代の閉塞感を打ち破り、道なき道を切り拓いた男の挑戦心と勇気、信念に迫る。

「体が元に戻れば、現役に戻りたいですよ」

と野茂さんは言った。あはは、ご冗談を、と笑う空気にはならなかった。

「引退してからもずっと野球をすることに飢えていましたから」

 言葉の奥に微かな本気が潜んでいる。

 そういえば野茂さんは、日本が誇る細胞学の権威に何やら訊きたいことがあるらしい……。いや、そんなこと無理だろう……。でも、もしかしたら……。そう思わせるところがこの人には確かにある。

 2020年。まもなく52歳になる野茂さんは、あの頃と同じように「できるか、できないか」でなく「やりたいか、やりたくないか」を物差しに生きていた。

「イエス」と挑戦したい気持ちだけ。

――野茂さんがアメリカ大リーグに渡ってから25年です。まだ日本球界にメジャー移籍のルールがない時代、懐疑的な視線と逆風の中での挑戦でしたが、あらためて恐怖はなかったのでしょうか。

「英語もわかりませんし、誰かに助けてもらわないと生きてはいけなかったので、私生活に不安はありましたけど、マウンドに上がることそのものには全く不安がなかったんです。とにかくメジャーのマウンドに上がりたい。その気持ちが強くて、不安とか感じませんでした。スタジアムにいることが一番楽しかったですから」

――人間、不安を抱えると、いろいろ準備して何かを持っていきたくなると思うのですが、当時の野茂さんは英語もメジャーの知識もそれほど持っていなかったとか。

「そうですね。ジャイアンツ戦(メジャーデビュー戦)でも、知っていたのは、4番のマット・ウィリアムスと3番の(バリー・)ボンズだけだったんじゃないかな。英語も聞き取れるようになるまで何年もかかりましたし、喋るなんていまだにダメです(笑)」

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photograph by Takuya Sugiyama

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