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阪神・藤川球児監督が日本シリーズ初戦で“あえて冒した危険”…9回をクローザー岩崎優でなく、石井大智に託したワケ「もう一丁行くぞと言われて…」
posted2025/10/26 17:05
日本シリーズ第1戦を2-1の僅差で逃げ切った阪神・藤川球児監督
text by

鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Kiichi Matsumoto
その瞬間、元阪神監督の星野仙一さんと交わした話を思い出していた。
ソフトバンクと阪神が激突した日本シリーズ第1戦。2対1と阪神が1点リードで迎えたソフトバンクの9回の攻撃だ。ここで阪神・藤川球児監督がマウンドに送り出したのはクローザーの岩崎優投手ではなく、8回途中からマウンドに上がっていた石井大智投手だったのである。
背番号69がゆっくりとマウンドに歩き出す。その姿を見たときに星野さんのこんな言葉が頭を過ったのだ。
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「“このピンチを何とか凌いでくれ!”と必死の思いで送り出した投手が、ビタッと抑えてベンチに帰ってくる。それでこっちは色気を出す訳や」
こんな監督の欲を否定するように、星野さんは投手心理から回跨ぎの難しさをこう話していたのである。
「でも必死の思いでバッターを抑えてきたピッチャーの気持ちは、その時点で切れとる。いくら良くても、未練を出して次の回もいかせるのは絶対にダメなんや」
確かにリリーフ投手の回跨ぎは継投の難しさの一つだ。イニングを跨いで使って失敗した例は何度も見てきたし、その度に、この星野さんの言葉を思い出してもいた。
藤川監督が“あえて犯した危険”
投げさせる投手がいないわけではない。岩崎というクローザーがしっかり後ろには控えている。それでもあえてその“危険”を、藤川監督は日本シリーズ初戦という大舞台で冒したことになる。
まずはその石井の登場場面から振り返る。

